エル・スール

El sur
「ミツバチのささやき」から10年後に公開されたビクトル・エリセの「エル・スール」は独裁政権から逃れて暮らす苦悩する父と過敏な少女の心ちくちく物語。
エル・スール

永遠の名作「ミツバチのささやき」から10年、「10年に1作しか撮らぬビクトル・エリセ」の名を定着させた10年後の父娘の物語です。

日本では、「エル・スール」に合わせるかのように、直前に「ミツバチのささやき」が公開されたわけですが、何も知らぬ頭の悪い私は、「お、ミツバチ観た直後なのに、もう新作か、精力的に撮ってる監督だな」などと10年開いていることなど全く知らずにそう思ってました。馬鹿ですね。

「ミツバチのささやき」にメロメロだったので「エル・スール」は公開前からわくわくそわそわ、前売りまで買って観に行ったわけですが、前作が気に入りすぎていた弊害のため、当時は作品の出来映えほどには興奮せず、悲しい話にちょっと落ち込んで「ミツバチのほうが良かったよ・・・」と泣いていました。嘘。泣いてはいません。

それ以来の2度目の鑑賞となりまして、何年ぶりでしょうか。25年以上は経ってます。おひさしぶりです。

改めて「エル・スール」を観ましたが、やはり想像通り、公開当時観ただけではちゃんと見えていなかったいろんな部分が目に飛び込んできて映画的興奮の痰壺もとい坩堝でありました。特に初見の映画部奥様が大興奮。どうやらお好みゾーンに直球ストライクだった模様です。

「エル・スール」は「ミツバチ」との共通点が多く、その1、少女の物語で少女目線である、その2、その目が捕らえた父親の苦悩である、その3、独裁政権から逃れた辺境の家である、などであります。また、「ミツバチ」の構想段階では、成長したアナの回想による物語になる予定だったそうですが、「エル・スール」では、成長しきってはいないものの、エストレリャの回想による物語です。
「ミツバチのささやき」がファンタジックで不明確な作品だったのに対し、「エル・スール」は明確に苦悩の物語です。フランコ政権下に撮られはっきりと政権批判ができなかった「ミツバチ」と比較して、より明確に政治観が描かれます。公開当時、ケツの青い私はその明確さ故に「エル・スール」を低評価したことを覚えています。ばっかですねえ。

さてさて「エル・スール」の少女エストレリャは、ちびっ子時代と少女時代があります。どちらもかわいいです。超かわいいです。聖体拝受の姿は天使です。彼女を取り巻く人物も皆魅力的です。彼女を捕らえるカメラワークも美術作品のように美しいです。彼女の周りで起こる出来事は一級の文芸作品のように心に突き刺さります。

まあなんといいましょうか、いいです。すべてがいいです。家がいいです。祖母がいいです。乳母がいいです。父は苦悩します。苦悩は愛だけの問題ではなく、スペインの歴史を背負っています。不思議な力の描き方がいいです。女優もいいです。女優の手紙がいいです。映画もいいです。映画館がいいです。景色がいいです。並木道がいいです。そこを走り去るオートバイがいいです。家がいいです。窓からの光がいいです。後半の、あのカフェでの父娘の会話シーンは鳥肌が立ちます。カメラがぐっとせり上がってパーティを移すあのシーンがすごいです。あほみたいな感想文ですが堪忍してください。

聖体拝受

原題「南(へ)」という本作は、南の地はエストレリャが想像する夢の土地です。原作や構想段階では実際に南の地へ出向くストーリーもあったそうなのですが、実際には南の地を赴くシーンは撮られず、最後まで南は少女の空想世界のままでした。そこんところが美しいのですが、ビクトル・エリセ監督的には「本作は未完成である」とかなんとか。いろいろともっと描きたい事柄があったそうなのですよ。

ずっとコンビを組んできた製作のエリアス・ケレヘタとは本作を最後に仲が決裂したそうです。いろいろ揉めたんでしょうか。よく知りません。ビクトル・エリセがたいそう頑固者であるということは、デビュー作「挑戦」のときからすでに明らかです。アートに妥協はないのだ、というような人っぽいです。もちろん本当はどんな人だか知りません。

何を書いていいのか分からなくなってきたのでちらほらネットを眺めていると、資料的にすばらしい記事を書かれているブログがあったのでリンクしときます。音楽の詳細やロケ地をお調べになっています。→ 『エル・スール』El sur(1983)|居ながらシネマ

さらにたらたらネットを眺めていて、ちょっとびっくりすることを発見したんでありますが、8歳のエストレリャを演じたソンソレス・アラングーレンです。この子、他に何に出てるかなーと、思ってデータベースあさってると、役者としては98年に二本の映画といくつかのテレビに出演しただけですが、なんと、ビジュアルエフェクトのクレジットでいろんな映画に参加しておられました。ちょっとIMDb観たら、その参加映画に驚きます。「私が、生きる肌」「 BIUTIFUL ビューティフル」「アレクサンドリア」「抱擁のかけら」などなど、MovieBooでもべた褒め系のそうそうたる作品群です。へえ。へえ。ほんとかな。 →Sonsoles Aranguren:IMDb

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