同じ2010年のスーパーヒーローパロディ映画「キック・アス」との類似点に思いをはせないわけにはまいりません。
日本では「スーパー!」の公開が遅かったんですが本国ではこちらが少し先発です。
冴えない男が自称ヒーローになるお話。お手製のややみっともないコスチューム。お馴染みのスーパーヒーローパロディギャグ。相棒の少女ヒーロー。少女ヒーローの汚い言葉使い。最後の活劇はきちんと盛り上げる。
と、「スーパー!」と「キック・アス」の共通点はてんこ盛りです。まるで同じお題を与えられた制作者が競ってるかの如くよく似た二作品です。
「バグズ・ライフ」と「アンツ」の時のような、汚らしい大人の裏の事情があったのかなかったのか、それは知りません。知りませんのでそういうのは無視するとして、で、この二作品ですが、似ているとは言え、似ている部分に目をつぶればもちろん全然違う映画です。それぞれに個性的で、見終えた印象も随分異なります。
はっきり申し上げますと「キック・アス」も本作「スーパー!」もどちらも滅茶苦茶面白いです。ですので、もうお客目線としては似ていようがどうだろうが、ただただ「面白かった!」と面白さを堪能する以外ありません。まるで享楽乞食の台詞のようで心が少々痛みますが、娯楽作品のお客はすべからく享楽乞食です。「もっと面白いものを」「もっと凄いものを」と小鳥が親鳥に餌を要求するように大口開けてアホみたいに叫ぶのが生業です。
さて「スーパー!」の主人公は冴えない中年に近い男です。製作総指揮にもクレジットされているレイン・ウィルソンが本領発揮の七変化。この人、最近「メタルヘッド」のお父ちゃんの役をやってましたよね。あの父ちゃん役もかなり凄かったけど、これほどの才人とはいやはやおみそれしました。
この主人公フランクは純粋ピュアなカトリック教徒で、神様にお祈りなんかいたしまして、結婚は神との約束で神聖なものでありセックスは快楽の為に行ってはならぬと、超可愛子ちゃんに誘惑されたときに罪悪感のため吐いたりするような人間です。こういう人間が神の啓示を受け正義のヒーローになればどういうことになるか、そうです。正義の名の下に暴力を行使する悪魔と化します。
正義とは言ってしまえば誰かにとっての好き嫌いのことでありまして、普通の好き嫌いと正義の違いは、正義は他者攻撃や暴力といった悪を内包しており傲慢で謙虚さの徳に欠けるゆがんだ思想であるということです。
時々こういう事書いてますが最近もどこかに書いたかな・・・「アメリカン・クライム」で書いてました。
と、まあこういった正義や悪に関する考察はヒーローコミックでも今や当然にいろいろ行われているそうでして、「スーパー!」もその例に漏れず「ダークナイト」のような社会的見地からの考察とはまた別の切り口で行っている点が面白いところです。特にキリスト教と絡ませたのは勇気ある脚本と言えるかもしれません。教会関係者がうっかりそういう部分を見つけたら騒がれそうですよ。うまくオブラートで包みましたが。
さて暴力装置としてのヒーロー像をさらに明確に見せてくれるのが相棒である少女ヒーロー、リビーです。彼女はフランクに押しかけて強引に相棒になりますが、その暴力への傾倒は強烈です。リビーの暴力への傾倒と性欲はセットで描かれます。そうです。リビドーによる暴力の発露です。そもそも暴力の根源のひとつは抑圧されたリビドーにあります。キリスト教原理主義者の異常な暴力性も快楽を悪として封印しているからに他なりません。
リビーのリビドーはちっとも抑圧されていませんが発露はしっぱなしです。そのあたりが現代っ子っぽく描かれていていい感じです。
このリビーを演じるのが我らがエレン・ペイジです。
背がちっちゃくてほんのりおかめ顔、無邪気さと包容力を併せ持つ素晴らしい女優エレン・ペイジ。見る前はどうしても「キック・アス」との比較で、あっちの少女のパワーには負けるのではなんて危惧もありましたが何のその、滅茶苦茶よいです。素晴らしいよエレン・ペイジ。可愛いよ。素敵だよ。はて。いつのまにこれほど絶賛するようになったのかな。
映画的な大ボス、実際は小悪党ですが悪の親玉を演じるのはケヴィン・ベーコンです。妻を奪い、麻薬取引をする小さなギャング団のボスでありまして、まあこの人は老けたというか若々しいというか、こんな映画でお目にかかるとは思ってなかったので最初出てきたときはびっくりしました。
変わった女房サラを演じるのはかつて私が「絶世の美女」と思わずつぶやいたリヴ・タイラーさん。すっかり顔が長くなりました。ちょっとくたびれたこういう役が似合うようになりましたか。
「スーパー!」のオープニングはとってもかわいいアニメからです。昔の映画みたいなこのオープニングに開始早々好感度急上昇。主人公がスーパーヒーローになってしばらくはお約束的な代わり映えのない展開もありますが、全体にはコメディ色よりハードボイルド色のほうが強いと感じました。けっこう本気活劇です。
正義と悪についてのテーゼなんぞを台詞として入れたりしていますが、結局のところ主人公フランコの病的な行動の映画であり、それを病的と感じつつ彼に喝采を送ってしまう小市民的正義感の発露というお客の喜びそうな落としどころにも持っていきます。このへん、よいさじ加減でけっこう絶妙です。
「NOISE ノイズ」という映画がありましたが、あれと非常に似た受け止め方が出来るバランスの作品だと思いました。
ヒーローもののパロディには欠かせない残虐描写も満載。この辺、ホラーテイストをしっかり持っている強みが出ています。
レイン・ウィルソンには呻るしエレン・ペイジは最高だし、単純そうで複雑なテーマもいいし、安直に「軽いパロディもののコメディ」と侮ってはいけません。かなりいいです。
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