「イン・ザ・スープ」はジム・スターク製作の洒落た作品です。ジム・ジャームッシュ作品やベント・ハーメル作品の製作をしておられます。
監督は95年に「フォー・ルームス」を撮ることになる才人アレクサンダー・ロックウェル(最近どうしてるんだろう・・)
個性派のスティーヴ・ブシェミを主演に据えている時点でもうすでに個性派映画でわかると合点できます。そのブシェミが映画を作りたい貧乏青年を演じ、脚本を買ってくれてパトロンを申し出る怪しい胡散臭いおっさんジョーをベテラン、シーモア・カッセルが演じます。この二人の変な関係。そして女性も絡みます。怖いような面白いようなコメディのような謎なような青春映画のような不条理映画のような不思議な展開をします。翻弄系です。
胡散臭いおっさんジョーは掴み所がなく変で妙で怖くて面白くて、ふざけているのか大真面目なのかわかりにくく優しいのか怖いのかも不明で、変なことを言ったりやったり神出鬼没で出鱈目でお茶目で頼りになり魅力的で鬱陶しくありがたくも困った人物です。つまり三月ウサギ的トリックスターです。
実はアレクサンダー・ロックウェル監督の体験をネタ元にしているそうです。金がないときに小物のギャングと知り合い、気に入られて映画製作の資金を援助してくれて、そのおかげで世に出ることができたのだそうで、「イン・ザ・スープ」の変なおっさんの元ネタは変わり者の小物のギャングさんだったのですね。
映画では不思議なおじさんとして大いに脚色していると思いますが、現実にこういう変わった人はおります。
私もいろんな人の世話になりましたし、中にはちょっと似た感じといいましょうか、援助を惜しまず応援してくれ可愛がってくれたありがたい社長さんもおられます。強引で個性的で面白くて怖いところもあって、当時は無自覚でしたが年を追うごとにあのとき世話になった感謝とそれにきちんと答えられていなかった後悔で胸が締め付けられる思いをすることがあります。
こういう人のこのテイストが逆の悪い方向に出ますと「冷たい熱帯魚」の村田みたいなことになります。
若いイエス似の変な兄ちゃん方向に出ますと「メタルヘッド」のヘッシャーみたいなことになります。
ちょっと話がずれましたが、そういうわけでパトロンを申し出た変なおじさんジョーに映画青年は翻弄されまくりです。大事なパトロンですから邪険にすることもできず、困ったりあるいは頼りにしたりします。
この二人の変な掛け合いにアンジェリカというカッコいい女性(ジェニファー・ビールス)も絡み、サブカル系青春映画の形相も帯びてきます。
映像も洒落ていて、音楽も大変洒落ています。登場人物の掛け合いもある意味洒落ています。
「イン・ザ・スープ」をコメディ映画と言ってしまうことに若干の抵抗があります。コミカルだけどコメディ映画っていうわけではないと思います。ではつまり何かというと、洒落た映画なのであります。