コマで遊ぶ子供、賭け事に昂じる大人。自由で暢気な南国の田舎町。「おい煙草買ってこい」「だって遊んでるんだよ」「小遣いやるから急いで行けって。輸出用の両切りだぞ」小銭を渡され走る子供。走る、走る、走る。力のこもった映像です。この子の顔がまたいい。景色が流れます。
なんというすばらしい冒頭。
バーリアで生まれた牛飼いの息子であるちびっ子ペッピーノは激動の時代を育ちます。彼の家族をはじめ、バーリアの人々や土地そのもの、そしてバーリアを通して歴史や世界まで描きます。
バーリアとはシチリア州バレルモの町バゲリーナのことで、地元の人々は大昔から「バーリア」と呼んでいるそうな。
そしてこの地はジュゼッペ・トルナトーレが28歳まで暮らした故郷で、人生そのものであり映画の原点であり宇宙の広がりであるという、そういう場所です。
公式サイトの監督の弁によると「ドン・ファブリツィオは、『17歳になるまでにシチリアを出なければ、シチリア人の欠点が身に染み付いて取れなくなってしまう』と言っていたが、まさにこの私がそうである」「世界中のどこに行ってもシチリア人であり続ける自分に誇りを持っているのだ」「シチリアを出てから20年以上の歳月が流れたが、一瞬たりとも故郷の風を忘れたことはない」と思いの丈を述べられています。
「私のシチリアへの深い愛から生まれた、唯一無二の作品だ。本作をご覧いただければわかるだろう。バーリアの小さな通りには、宇宙に匹敵する広がりがある。世界中を歩きまわっても学べないものを発見することができるのだ。私にとっては、まさにここが『世界』そのものなのだ」
もう監督の力の入れようったら異常です。一つの町の何十年かを贅沢に表現し尽くした大作。シチリアに行ったこともない人間でさえ、この作品から放たれるノスタルジーに触れて全身が震えます。文句なしの素晴らしい逸品。
ジュゼッペ・トルナトーレという人はもし映画の巨匠じゃなければ過去への望郷が強すぎて死んでしまうタイプです。きっと。
子供の頃の体験を現在と同等に記憶しており、自我が継続しているが故に時間の経過による重圧とノスタルジーに苛まれるまさに芸術家タイプ。「ニュー・シネマ・パラダイス」にも「題名のない子守唄」にも同様の時間経過に関する思いが詰まっていました。
この映画の特徴はまず何といっても故郷バーリアを時代の節々で再現した見事な映像です。ノスタルジー系映画におけるCGの恩恵。この町の様子をもし全てセットで作ったら何個かの国家が吹っ飛ぶくらいの予算が必要だったことでしょう。もちろん映画を見ている間はそんなこと感じませんが、最新映像技術はこれほどに説得力を持つに至ったんですねえ。
それから人々です。ちびっ子ペッピーノ、いいです。この手の映画にありがちですが、ペッピーノが少年になり青年になり大人になっていくにつれ、観ているこちらはいつまでも「ちびっ子のほうが良かった」なんて思いを引きずってしまいます。そういうのありがちです。
この作品の場合は物語が豊富なのでその思いは徐々に解消してくれますし、それより大人ペッピーノに子供が出来てそのちびっ子たちがいい案配なのでそういった解決策も提示してくれます。
そして何よりも序盤のちびっ子シーンの強烈な印象は(これ以降割愛。是非本編で)
このラストに至る処理こそ、ジュゼッペ・トルナトーレの本領発揮。
すばらしい。すばらしいです。
早いカット割りと動くカメラ、南イタリア語の独特の方言、町の人々。小さな物語が詰まっています。エピソード満載。ミニドラマの連続。まるでCMサイズの短編集を見続けているかのような編集です。序盤は早すぎるカット割りに「忙しすぎるよっ。ちょっと待ってくれっ。いつになったら落ち着くんだよっ」と思い続けていましたが、なんとまあ小さなドラマの連続連続でたっぷりと何十年かにわたるペッピーノとバーリアの人々を堪能できて、気がつくと映画の実時間の何百倍も共に過ごしたような気になれます。そのうち「終わらないで」とすら思えてきます。
田舎町。映画。少年。このテーマは「ニュー・シネマ・パラダイス」と同様です。「ニュー・シネマ・パラダイス」も半分は監督の自伝、本作「バーリア(シチリア!シチリア!)」はもっと自伝的ですので共通のテーマが出てくるのは当然ですけど、この、子供の頃の映画の思いでの強烈さってのは、映画ファンには共通するこれもノスタルジー死してしまいそうな憧憬ですね。
「ニュー・シネマ・パラダイス」のディレクターズカットに関する論争がありますが、私の意見も「劇場版支持」です。じつはこのディレクターズカットに対する批判が元でジュゼッペ・トルナトーレをあまり好きでなくなったんですが、「シチリア!シチリア!」で大逆転。「ニュー・シネマ・パラダイス」で気に入らなかった点(引き摺る恋心のドラマ)が「シチリア!シチリア!」では見事に削ぎ落とされています。愛に関しては一目惚れから一貫して安心印、ねちっこい愛のドラマ仕立てのシーンはまったくありません。愛はラテン気質の深くてさばけた描き方です。そこんところもいいです。
というわけでノスタルジー系ちびっ子系人生系イタリア系のお勧め作品でございました。
「シチリア!シチリア!」などという変な邦題だけが残念無念。この邦題のせいでこれまでまったく見る気が起きませんでした。 原題「バーリア」で何が悪いのよ。
みなさまも変な邦題のせいで敬遠せず是非どうぞ。
ヴェネツィア国際映画祭SNGCI賞受賞。金獅子賞はノミネートに留まりました。
“シチリア!シチリア!” への2件の返信