ふと気の迷いが起こり「イレイザーヘッド」を久しぶりに見ました。我が家映画部の奥様が未見だというので「それは見ておかねば」とお勧めしたのも理由のひとつ。
「エレファント・マン」公開時、差別をテーマにしたヒューマニズム映画という大宣伝に踊らされ、私が通っていた学校が授業の一環として生徒に鑑賞させるという暴挙に出ました。わーわー言いながら街の映画館に繰り出し生徒全員で見た「エレファント・マン」うーむ。感慨深いです。
しかし私は騙されなかった。どう見ても根底にあるのはフリークス映画です。あの特殊な映像を見てもわかります。アートでありシュルレアリスムであり猟奇趣味であり攻撃であり破壊であり変態であります。そしてそういうものを根底に秘めながら、あろうことかお涙頂戴の皮を被り、大ヒットさせたのです。
これには心底驚きまして、「このデヴィッド・リンチという監督は一体何ものだ」と世界の人と同様に興味が急浮上、ほどなくその監督のデビュー作という77年の「イレイザーヘッド」が紹介されました。
そんなわけで「イレイザーヘッド」をはじめて観た時に第一に思ったのは「ほらやっぱり」でした。
すでに体に染みついていたアート映画やアングラ映画好きの魂が揺さぶられ、映像の全てにわくわくにやにやしっぱなしの大興奮。大好物に触れる喜びに満ちた素敵な時間をすごしたものです。
しかし悲しいかな青春時代の恥ずかしい病的気性ゆえ、素直に喜びを噛みしめることなく「なかなか良い筋してるやん。悪くないけど今更だよね」などと生意気で恥ずかしい、出来映えの素晴らしさを素直に認めぬ死に値する超みっともない青臭い糞餓鬼の感想で終わらせてしまったんですね。最悪ですね。あー、おれの馬鹿馬鹿バカ。
しかしながら面白いものは面白いし、個人的映画史の中ではいつの間にか不動の地位にいた「イレイザーヘッド」です。
その後デヴィッド・リンチ作品は何を観ても「イレイザーヘッド」ほど面白くないし、特に気にとめることなく作品を追い続けることもなく時は流れました。「インランド・エンパイア」に出会うまでは。
「インランド・エンパイア」は「イレイザーヘッド」の興奮に最も近い、待ちに待ったデヴィッド・リンチの本気本領発揮作品として大絶賛しておりまして、映画部Movie Booでも歴史に残る大傑作の認定をいたしております。そうすると当然ながら「イレイザーヘッド」を知らない・もう忘れたでは済まされないのであります。
今回30年ぶりの再見ということで、細かいところはさすがに記憶にない部分もあって、とても新鮮に観ることができました。今度こそ素直に「素晴らしい映画」と言い切ることが出来ます。
腹の底からの怖さと面白さは今観ても、否、今観るからこその一級品。
今回は音響の凄さにあらためて感じ入りました。近所迷惑顧みずのホームシアターで大音響「イレイザーヘッド」は、吐き気寸前の生理的不快感。こんな体験他では味わえない。
あ、この音響は1997年にリンチが手を施したという「完全版」の流れでしょうか。
超個性的な主人公を演じたジャック・ナンスは「イレイザーヘッド」の印象が強すぎて、以降のリンチ映画の常連になるものの端役出演ばかり。不遇と言えば不遇、そして「ロスト・ハイウェイ」の撮影終了後、頭の怪我が元で命を落としました。「口論の末ラテン系の人物に殴られた」と主張していたそうですが、解剖の結果血中アルコール濃度のレベルが高く「酔って自分で頭をぶつけた可能性もある」ということだそうです。
「イレイザーヘッド」でのジャック・ナンスの振る舞いやあの髪型、あんな個性的な人見たことない。最初「イレイザーヘッド」の意味はこの人の髪型のことかと思ったほどです。消しゴム頭みたいですもん。
wikiによると、製作中4年間、この髪型を変えなかったそうです。
映画祭に応募しても断られ、最初の上映の客は24人、その後もレイトショーでしか公開されなかったこの作品、徐々にカルト的な支持を集め始め、現在では「アメリカ国立フィルム登録簿(National Film Registry)に選定・登録され、アメリカ議会図書館に保存されている」(wiki) とのことです。
2012年4月に「リストア版」なるものが発売されるらしいです。BD版には、監督コメンタリーや短編5編がオマケで付くそうな。
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