告白

告白
中学1年生のとあるクラス。教師森口悠子(松たか子)が静かに語り始める告白を皮切りに起こる中学生たちのいろんなドタバタと顛末。
告白

この画像はサウンドトラックのものですが、いいですね。松たか子、ほんとの先生みたいです。丁度いい具合に年齢を重ねてきて先生顔にピタリとハマります。ジャストなタイミングでの映画になったかもしれません。

さて大ヒット作「告白」ですが、やっと観ることが出来ました。
松たか子が先生役で、中学生が何かヤバそう、という程度の認識で,どんな映画か全然知りませんでしたので大いに楽しめました。

中島哲也監督の作品は「下妻物語」と「嫌われ松子の一生」で好印象、「パコと魔法の絵本」で「もういいか」なんて思ってしまいましたが、なんのなんの「告白」は面白いじゃありませんか。

そもそも原作が評判の受賞作品だったんですね。原作者は湊かなえという方で「告白」の第1章にあたる「聖職者」で小説推理新人賞を受賞したとのこと。
映画は原作にかなり忠実と言われておりまして、そうすると、あのぐいぐい観る者を引き込む素晴らしい冒頭の教室シーンが「聖職者」の部分ですね。確かに、もしあそこで終わる短編映画であったとしても十分納得できる見応えあるシーンでした。
原作の章立てと同じような効果をもたらす演出をしているのであれば「かなり原作に忠実」と言われるのもうなずけます。原作を読んでみようとする人を大量に発生させても不思議じゃありません。

各人のモノローグで展開する演出も原作が連作(章立て)であったことを知れば納得です。
私は原作を知らず章立てを意識せずに観ましたが、それにかかわらず、ああやって次々に主人公の独白が切り替わる展開は面白いと思いました。どう面白がったかというと「少女漫画的技法」であると感じて感心したんです。
少女漫画では不思議なことに主人公以外の人物が登場するやいなや突如その人物の一人称として独白が入ることがよくあります。少女漫画になれていない頃はそのたびにびっくりしてページを後戻りしたりして「えーと、誰々がこの独白を言っていて、次のコマは誰々の視点で語っていて、と。で、この誰々はいったい誰だ」と、ゆっくり分析しながらでないとついていけないものでした。ややこしいながら実験的で面白いなあと感心したものです。
その少女漫画における多重要素浮揚性虚構と同じ香りを「告白」にも感じました。
これはきっと偶然とか勘違いとかではなく意図的なものですね。というのも、中盤以降、モノローグが折り重なるように出現する演出を挟みますから。もはや章立てとかそういうんじゃありません。これはモノローグを語る”観客にとって安心安定の「主人公」”の突発的な切り替え、それによる不安定感、浮遊感を表現できています。少女漫画に見る視点の飛び交いや不思議なコマ割りに匹敵する面白い効果を狙ってやっていることに疑いはありません。

映像的にはいつものようにポップで美しい処理を施しています。冒頭の教室から、屋上の空から、クローズアップやスローモーションを駆使し色調を弄り、短いカットを挿入し、いろいろと工夫しまくりです。全編ほとんど何らかの処理が施されています。
これをうざいと見るか許容するかは好みの問題でしょう。私は今回の処理は今までの作品の中で一番いいと思いました。軽薄さと重苦しさのバランスが絶妙と思ったからです。

ラスト近くまで臭くならないぎりぎりのところで押さえ込んでいたドラマですが、最後に安っぽさが全開してしまいます。
つまりええと、最後のですね、叫ぶシーンとかですね、四つん這いになってしまうあのあたりの演出ですね。ずっとクールに演出されてきたものが、あの最後だけ漫画チックというか安ドラマ風のクライマックスへと変貌してしまうんですよね。
残念ですがこれも意図的なものと捉えるほかないでしょう。
この作品、観る者を選ぶような小品の文芸作品でもないし、最後の最後は多くの観客に判りやすい興奮を与えるサービス精神を発揮する演出意図があったのでしょう。
実際、ああいうシーンで締めたおかげもあって、とても多くの観客に受けたのだと思われます。
もし最後のあのシーンもクールな演出に徹してですね、それで尚かつ心の崩壊寸前の凄みを演出できていたら、映画的にはかなりの名作になっていたと思うんですが、その分動員数はぐっと減ったと思うんですよ。

それともうひとつ大きく残念に思うのは、後半に起きるある事件です。ある重大事件が起きるのですが、ストーリー的にさらりと描くものだから映画全体の品位を大きく落としてしまいます。あの重大事件のせいで、森口先生の強い思いをもたらす映画の基礎となる最初の事故(事件)の影が薄くなってしまうんですよね。
これは原作通りなのだろうし文句を言っても仕方がないんですが、あの事件さえなければびしっと筋の通った心理劇としてより鋭い物語になっていたんだろうなあと思えて残念です。

と、まあそんな失礼極まりないつまらない揚げ足取りの批判はともかく、全体的には評判通りの面白さでした。とくに序章とそれに次ぐ中学生たちの生態を描いた前半はかなりの出来映えです。普通の子たちから映画慣れした大人まで、広いターゲットを楽しませることに成功したのは間違いありません。

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