シェフ

Chef
実力あるシェフがレストランをクビになりフードトラックから出直そうというお話。2014年「シェフ 三つ星フードトラック始めました」は最高に気分が良くなり食欲が増す楽しい映画のチャンピオン。
シェフ

誰かに教えてもらって観た「シェフ」なんです。何か楽しい映画ないかなーと思っている人にこの上なく最適な超楽しい映画で、楽しい映画は数々あれど冗談抜きで万人にお勧めできる娯楽映画のチャンピオンです。

映画詐欺師Moviebooでは時々とても万人に勧められないようなマニアックな映画を普通の顔して「めちゃおもろい傑作」とか騒ぎますが「シェフ」はそういうんじゃなくてマジ普通の人たちにもお勧めできる普通かつ楽しくかつ見事な映画です。

こんなお話

有能なシェフが斬新で美味しい料理を作り出そうと努力しますがレストランのオーナーはすでに評価の定まった売れ線の定番だけ作ってろという態度でして、その諍いでクビになり一気に落ちぶれます。そんでもって、初心に返ってフードトラック(屋台)から出直そうっていうお話。

フードトラックに息子も乗せて父と子の交流話あり、アメリカ横断で旅情やご当地グルメやご当地音楽あり、一旦は落ちぶれる男の努力とガンバリの成功物語あり、気のいい助手との交流あり、シェフという職業人を描く「はたらくおじさん料理長編」あり、元妻やいろんな人との面白人情話あり、Twitterやネットも取り入れて笑い転げるエピソードありで、もうまるで娯楽映画の教科書のような受けが良さそうなネタがすでに詰まっていますよね。

三位一体

この映画は映画そのものが映画とシンクロしているタイプです。何のことかというと、これまでことあるごとに褒めてきた「シナリオと映画技法と表現内容」の三位一体系でもあるってことで、それはつまりジョン・ファヴローその人です。

ジョン・ファヴローは監督・製作・脚本・主演です。ほぼこの方の自主映画ですね。ハリウッドで数億ドル規模の大作を監督してきた人です。その大物が作りたい映画を自分で作りました。これ完全に映画内の主人公シェフと同じ立場ですね。この映画そのものがジョン・ファヴローにとってのフード・トラックです。

映画内でいろんなことが語られたりエピソードとして登場しますが、多くが「料理」を「映画」と置き換えて成立する脚本にもなっています。批評家絡みとか、それを感じ取れてムズムズしますよね。

で、です。捻くれ探偵Moviebooが注目するポイントがここにあります。

アーティストの苦悩と現実、結果が異常な映画「シェフ」

金のための仕事と自分がやりたい表現という問題についてです。
大抵のクリエーター、アーティストというのはこの問題の中で揺れ動きます。

この映画のシェフと同じく、新しく斬新でユニークな自分のアート表現を行いたいと誰しも思います。しかし現実には依頼主の意向から逸れることができなかったり、ありきたりなものを求められてイラついたりします。またあるいは、何かの折にほんとうに自分がやりたいことをやってのけたとき、それが全く受けが悪く「誰もこの価値がわからんのか」と一人ぶつくさ言ったりします。斬新な表現を行ったときの「アート気取りの自己満足」問題です。斬新でユニークなものというのはまず大抵万人に受けません。当たり前です。

たとえばフランシス・フォード・コッポラがのびのびと作った「テトロ」「胡蝶の夢」「ヴァージニア」の三作、ウィリアム・フリードキンが作った「BUG」、どれも最高の傑作ですが決して万人受けはしません。

ところがですよ。この映画「シェフ」を作ったジョン・ファヴローという人はですね、ハリウッドの大作に満足できず「自分が思うように自分らしい映画を作るぞ!」と自主映画を作りましたが、その内容がですね、万人に受けまくる最高の娯楽作品だったんですよ。こんなことってありますか。

この人が目指し本当に作りたかった作品は「すっごく楽しい真の娯楽映画」だったんですよ。これは非常に珍しい野心としか言いようがありません。異常な結果と言ってもいい。そういう意味でも映画内のシェフと被りますよね。シェフが作りたかった料理は斬新でユニークですけれどもアート気取りの難しい料理ではありませんでした。それはみんなが笑顔になる美味しい料理だったんです。

この件に関してはMovieboo筆者の職業的問題ともシンクロして大きく共感を持っている部分ですのでここからこの問題について100行語りますがうざいので削除しておきました。

お気に入り

「シェフ」にはお気に入りのネタがたくさんあります。まずなんつっても元妻です。

元妻

元妻が登場する前にスカーレット・ヨハンソンが登場するので、その映画的措置即ち普通の人の役なのにとびきり美女っていう懐かしくさえある設定に戸惑います。その後、元妻が出てくるのですがこれまたどこの映画女優さんですかという出で立ちとお化粧の美女なわけで「この映画、極端な美女出し過ぎ。ハリウッド黄金時代か」と小さなツッコミ心も芽生えます。ですがそれ完全に罠でした。

このいつも派手な服着て家でも化粧バッチリの昔のハリウッド映画風の妙な美人妻のですね、壮絶キャラが際立ってくるのは故郷マイアミに出向いたあたりからです。まずは超おもろいキューバ音楽歌手のパパとのおかしな会話から始まり、元妻のラテン気質が全開します。
一旦その面白さが発揮されれば何もかもが面白くて、息子のお願いに速攻「OK」することや日常的にきらびやかな服を着ていることそのものがおかしくって仕方なくなります。ぶっ飛びラテン気質の美しい元妻、このキャラは最高でした。

スカーレット・ヨハンソン

スカーレット・ヨハンソンとねんごろになりかけるシーンがあって、そこでスパゲティを食べるのですが、この短いシークエンスははっきりいって映画史上に残るレベルです。スカーレット・ヨハンソンの実力は並みじゃありませんね。自宅でスパゲティを食べるこのシーンは映画の神様が降臨した奇跡のショットです。でもそれは奇跡ではなくジョン・ファブローとスカーレット・ヨハンソンの実力ですよね。ここぜひ堪能して歴史の証人になっていただきたいと思います。

音楽

キューバの音楽嫌いな人はこの世にいません。もう最高ったら。元妻のパパもキューバ音楽家です。パパ役はもちろんゲスト扱いで、この方は Perico Hernández(Jose C. Hernandez ‘Perico’)ですね。キューバ音楽シーンに惚れた方はアルバムもぜひどうぞ。

旅の中でニューオリンズにも立ち寄ります。ここでは軽快なジャズが堪能できますね。テキサスではテキサスのロックを黒人ミュージシャンがやるシーンがあります。各地の音楽も楽しいです。

料理

ジョン・ファヴローは映画の中で包丁さばきや調理シーンも披露しますが、料理人に弟子入りして学んだそうです。その師匠がこれまた有名な料理人で、もともと一流ホテルのシェフでしたが辞めて韓国料理とメキシコ料理を合体させた独自料理でフード・トラックを始め話題沸騰だった人なんだとか。この師匠の映画でもあるというわけですね。エンドクレジットに出てきたあの人で、世界は今このパンだけだとか痺れる言葉が一瞬聞けます。

人々とお話

他の登場人物もみんないい感じです。特にみんなが絶対気に入る助手マーティンとかね。ジョン・レグイザモが演じていますが、この人ったら最高ですよね。「タブロイド」で初めて意識した俳優ですが「スポーン」にも出てましたか。そうでしたか。

人々もいいですがストーリーもセットでとてもいいです。ストーリーの良さをひとつだけ言うと、余計な鬱陶しい出来事がないってことです。

この手のお話について回る「主人公の危機」みたいなわざとらしい展開ってありますよね。例えばどこかで大きなミスをしてしまうとか、悪いやつが邪魔するとか、事故がおきてしまうとか、そしてそこから復帰して感動プーみたいな、そういう下衆なストーリーが一切ないってところがめちゃ気に入ってるところです。

というようなことで、ぐだぐだ語るような映画じゃないので大概にしておきますが楽しさは保証付き。
くさくさして「何か楽しい映画ないの?」と思ってる人に最適と思います。

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