映画官能Moviebooの筆者はフェミニストでマイノリティの博愛主義者であるフリをしながらその実は民族派好色保守左翼のアナーキストでもあります。ですので女優さんが大好きでしかたありません。でもまれに普通の俳優にも惹かれます。その筆頭がミキ・マノイロヴィッチですが、その他大勢一目置いてる俳優もおられましてドニ・ラヴァンもそのひとりです。「ブラ!ブラ!ブラ!」(映画祭では「ブラ物語」)ではこのお二方が出演されていました。でも見逃した!
最も好きな女優さんは数えきれませんが、30代の頃将来の夢はフランス女優になることでした。その他、スペインの女優さん全員にぞっこんです。先日「シークレット・ヴォイス」に出演していた「アナとオットー」のナイワ・ニムリと自分の中で同じくらいの位置におられるのが「ルシアとSEX」のパス・ベガです。「ブラ!ブラ!ブラ!」にパス・ベガ出演されています。他にもゾッコン系の女優さんばかり出演しています。チュルパン・ハマートヴァも出演されています。でも見逃した!
そこで、ファイト・ヘルマー監督の長編映画デビュー作1999年の「ツバル」です。これ観たことないし知らないし、良い機会だからせめてこれを観ようじゃないかと。ドニ・ラヴァン主演で、チュルパン・ハマートヴァがヒロインです。どんな映画でしょう、「ツバル」わくわく。
ツバルと関係ありません。でも少し関係あります。あと、思い浮かぶ監督
現実世界のツバルはオセアニアの諸島にある小さな国です。温暖化で沈んじゃうって有名になりましたね。映画「ツバル」はツバルの映画ではありません。でもツバルという島が「誰も知らない夢の島」みたいなファンタジックな扱いで地図上に登場します。この登場の仕方、この扱いは20世紀末のカルチャーをちょっとだけ象徴していると思います。
テリー・ギリアム
かつて1920年代の芸術家たちは「優雅なる死骸」という言語とイマジネーションの遊びに昂じました。これを世紀末の人間が再評価し積極的に取り入れました。それは世界的な流行でもあり、良い使用例として私が考案した「無関係しりとり」・・いや、テリー・ギリアム「ブラジル」が上げられます。映画「ツバル」におけるツバルは、「ブラジル」におけるブラジルと同じではありませんが遠からずの印象を受けますね。そして映画「ツバル」監督ファイト・ヘルマーからテリー・ギリアムの影響を受けていないなどということは全く言えないと、「ツバル」を見終えた人は思うはずです。
ジャン・ピエール・ジュネ
テリー・ギリアムと言う以上ジャン=ピエール・ジュネの名前も出さずにおれません。ファイト・ヘルマー「ツバル」はまったくもってオリジナリティ溢れるオリジナル作品ですが、これら偉大な先人たちの名を出すことは失礼と知りつつ他に表現する言葉を持たぬ書き手の哀れとしてお許し願いたいところです。「テリー・ギリアムとかジュネみたいだな」なんて言ってるんじゃなくて、この人たちの名を並列に出して良いほど誉めているとガッテンしてください。
エミール・クストリッツァ
普段は避けている「誰それを思い出す」といういやらしい褒め方を続けてごめん。ついでだから行きます。異端の帝王エミール・クストリッツァの名を上げます。喧噪感、浮遊感や、ドタバタの底に満ちている政治的な世界の捉え方が共通しているように思います。政治的というと変ですが、国家感といいますか、映画舞台から滲み出る国とそこに生きる人の悲哀感といいましょうか。それと「ツバル」では実際エミール・クストリッツァ映画と事実として繋がりがあります。「ジプシーのとき」「アリゾナ・ドリーム」「アンダーグラウンド」で壮絶音楽を提供したゴラン・ブレゴヴィッチが「ツバル」のために楽曲を提供しました。あと最後のほうのプールのシーン(全部プールのシーンだが)、あれまったくもって「ジプシーのとき」のシーンと被ります。
ロイ・アンダーソン
本日悪のりしているのでさらについでにロイ・アンダーソンの名を上げます。特に「散歩する惑星」です。この、笑いの中に潜む薄ら怖さですよ。ロイ・アンダーソンとファイト・ヘルマーの共通点はともにCMを撮っていたことなんかが上げられるかもしれません。「散歩する惑星」と「ツバル」から凄く似た臭いを感じますよね。感じませんか。私は感じました。
デヴィッド・リンチ
正直、リンチの名を出すのは半分冗談でオマケでサービスです。というのも、モノクロ的な映像でちょっぴりシュールで昔の映画のような作りという、まあ言ってみれば表層的なことをもってして「イレイザーヘッド」の名を挙げてもいいかなと今ふと思ったので。観ているときも見終わった後もほんというとリンチ師匠のことは思い浮かびはしませんでした。ここは余計な一言ですねすいません。
つまり、わしめっちゃ好きってこと
名監督の名前を何人か挙げました。これらの人に決定的に共通するところはどこですか。それは映画偽装Movieboo筆者が大好きな監督でアーティストってことです。
さて、前置きはこのへんにして(ここまで前置きかいっ)「ツバル」がどんな映画か知らない人のためにあらすじ書きます。
「ツバル」の世界
プールを経営している盲目の父親の元、下働きをする次男です。外に出たことはありません。屋上から双眼鏡で見渡すことだけが外の世界との繋がりです。長男は悪役です。プールは地下の巨大機械で動いており、機械のコアは点火プラグのようなピストン装置です。これの奪い合いが巻き起こります。可愛子ちゃんも登場します。
映画「ツバル」にはセリフがほとんどありません。最新作「ブラ!ブラ!ブラ!」もセリフがない映画でした。セリフがほとんどないのはサイレント映画という意味ではありません。似ていますが違います。わずかに言葉も発します。名前とか。あとほら「テクノロジー・システム」とか(笑)
字幕を必要としない、世界を相手にした映画です。字幕を必要としないからには、映像と俳優の動きで見せます。
映像
映像すごいです。惚れます。どこか謎の国、わけのわからない時代、何ひとつ特定しない世界です。しかもその世界のプールです。屋上は船みたいだし地下には変な機械があります。プールのロケーションは目眩がするほどの美しさ。外の世界も異常世界です。ここはJ.G.バラードが描く荒廃した未来世界ですか、昔の国ですか、夢ですか、という何もかもが愛おしく儚げで笑えて怖い映像の数々です。
俳優
全員いい動きします。往年のサイレント映画を彷彿とさせる身振り手振りに大袈裟な動き、感情表現、俳優全員俳優じゃない人たちもすべての出演者お見事。中でもやっぱりドニ・ラヴァンとチュルパン・ハマートヴァには痺れます。チュルパン・ハマートヴァ、可愛くてキュートでメロメロにやられました。あぁ、でも届かない。なぜ君は1999年の人なの。でも2018年でしたっけ「ブラ!ブラ!ブラ!」にも出ていますよね。でも見逃した!
映画的には、技法が特殊なので開始しばらくはまずその技法的なことばかりに目が行きがちでした。でもだんだんとドラマが際立ってきます。このあたりも脚本ともども俳優さんたちの力だなと思います。後半に差し掛かる頃には映画の表現技法よりもドラマにどっぷりハマれて楽しさもヨイショで満開です。
世界
「ツバル」の世界は惚れ惚れするような悪夢でファンタジックで面白くて異常世界です。この世界の構築について「いったいぜんたい、どうやってこの世界を作ったんだろう」と不思議で仕方なかったんですが、メイキングビデオによるとこれほとんどロケなんですってね。プールもです。ブルガリアの首都ソフィアで撮影されたそうですが、ロケハンでこの土地に来て気に入ってしまい出来上がっていた脚本を大きく書き直したんだとか。そりゃもうこんな世界を見せつけられたら映画の構想自体が変わってきても不思議じゃありません。ブルガリアってどんな国なんだいと思わずにおれませんね。
これまで予算がないからブルガリアに行って撮りましたっていう低予算のホラー映画なんかを観てきましたが、そのせいもあって私の頭の中には「ブルガリア」という異世界が存在していました。ただ「さあ帰ろう、ペダルをこいで」を観るとブルガリア異世界病も少し治ります。
監督
ファイト・ヘルマー監督は「ツバル」のころはまだ若々しくて、がりがりの変な兄ちゃんです。この頃の監督の姿をみて「ナポレオン・ダイナマイト」を思い出したのは失礼すぎるので秘密にしておいてください。
がりがりの兄ちゃんですが映像へのこだわりは強そうです。初長編映画への思いが詰まりまくった奇跡の一本。いえ、奇跡なんかはありません、監督と俳優とスタッフとブルガリアの力です。この後、監督は大人にもなりこどももできたしヒット映画も作ります。自分のこどものためだけにちびっ子活躍映画「世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方」も作りました。「ツバル」ほどの幻想性攻撃性が後の作品にたとえないとしても「ツバル」を作った偉業は永久です。
知らない世界 知らない映画
そんなわけで、これまでまったく知らなかった「ツバル」を初めて観て感動醒めやらぬ熱い感想文になりました。まだまだ知らない超ツボ映画が世界にはあります。知らないことはなんて素敵なことなのでしょう。初めて知るという知った人には逆立ちしても不可能な貴重な体験が約束されます。
TUVALU – Trailer https://www.youtube.com/watch?v=tiTGHlpHpto
youtubeにあったトレイラーですが貼り付け禁止みたいなのでリンクで。