あまり積極的に観ないんですけどたまに観たら結構気に入るラブコメ映画です。「アバウト・タイム」はただのラブコメではなくて、どっちかというと広い意味のラブで、そうですね、愛とか恋とかいうよりも家族とかですね。家族や、それから世界に対する愛の映画でした。さらにSFです。えっ。SF。はい。タイムトラベルものです。嫌な予感しますか。大丈夫、タイムトラベルですがそれはSF設定ではなくて魔法設定です。「暗闇でグーして念じれば過去に行ってやり直せる」ということで、タイムパラドックスとかパラレルワールドはありませんのでSFマニアの方はご批判をご遠慮ください。
ということで軽く見始めて序盤は不安になります。あまりにも軽々しくばかみたいだからです。ですがそれでいいのでした。だんだんその軽々しさが楽しくなってきます。
失敗したら過去に戻って上手くやり直します。そういうことを続けると人生上手く行くんじゃないかと思いますがそうでもない、みたいな。そんな映画ですね。
最初のエピソードは1ヶ月滞在する可愛子ちゃんに惚れて、最終日に告るんです。すると可愛子ちゃんは言います。「そんな大事なこと最終日に言われましても。もっと早くに言ってくれれば良かったのに」グーで念じて過去に飛び、さっそく告ります。すると可愛子ちゃんは言います。「そんなこと迂闊に言われましても。1ヶ月すごして、最終日に言ってくれればいいのに」どっちにしろフラれるという話ですね。ちゃんちゃん。
ちなみにこの可愛子ちゃんを演じた脇役マーゴット・ロビーですが、タランティーノ監督「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」でシャロン・テートの役に大抜擢。すごいす。
ということでまあそんな感じの軽々しい話ですが、これお話が進むと細部が俄然輝いてきます。映画は細部のシナリオがすべてです。細部良ければすべてよし。細かい部分のギャグが冴え渡ります。
くどくどと単語を繰り返す変な会話に身をよじるし、毒舌やカテゴライズ命名に笑うし、この、何と言いますかイギリス映画らしい変な会話部分というのがお気に入りです。ギャグが変に細かくて妙なんですよ。シナリオさすがです。
シナリオさすがと思ったのも当たり前、監督・脚本のリチャード・カーティスは監督というより脚本家で、ミスター・ビーン各種、ブリジット・ジョーンズの日記、それからコメディじゃないけどスピルバーグの「戦火の馬」、そういう作品の脚本家のひとりでした。キャリアは確かなんですね。シナリオ面白いはずです。
細かいギャグはとても気に入りましたが、この映画自体はまあ褒めまくるようなものでもありません。好みに合わない部分が後半にくどくど出てきます。それは感動させようとする部分であったりくどい愛情の描写だったり、「もうええから、そういうのは」とちょっと最後のほうの展開は楽しくありませんでした。
家族や妻に対する愛情の話だけならともかく、世界は素敵とか一日を有意義にとか、まるでおいしい生活みたいなそっち方面の愚人への啓蒙は気に入らないというより寧ろゲーっでしたわ。設定も50年代の「貧困層に金持ちの暮らしを普通に見せて憧れさせる」ための憧れの家族そのままです。パパは高名な脚本家、主人公は若手優秀弁護士、妻は成功してる編集者で景色の良い環境にある裕福な実家とか、トレンディドラマ的設定です。あと「たばこが原因で肺癌」これはいけませんね。無茶苦茶すぎます。
という最後のほうは放っておいて、途中途中の細部とギャグの面白さはわりと抜群なので問題なしとします。芝居シーンの馬鹿馬鹿しさ、展覧会での会話、サプライズを用意してすごすご引き下がるシーン、母親の毒舌、笑えます。脇役含めてキャラクターたちも皆おもしろい設定が用意されていて魅力あります。基本ポップな映画で、会話の中にちょっぴり毒気があるタイプにすぎないのでそのへんは割り引いてくださいね。
主演はドーナル・グリーソンとレイチェル・マクアダムス。どっちも実力ある俳優です。ドーナル・グリーソンはひ弱な兄ちゃんから苦悩する男まで意外性を含めて何でもやれる侮れない俳優ですね。「エクス・マキナ」の演技なんかすごいもんでした。
レイチェル・マクアダムスは「消されたヘッドライン」と「スポットライト」両方で記者の役をやった庶民的な可愛さと賢さを同時に表現できるこちらも侮れない好感度女優です。
なぜこのタイミングでこの記事を?気にしないでください。