映画の冒頭が二段構えになっています。オープニングは意味ありげな数字が蠢き、そして主人公家族らしい古いフィルムが流されます。父親の過度の信仰によって家族が崩壊した、という独白とともに主人公が登場。家族に対する過去のわだかまりみたいなものを引きずっているこのオープニングから一転し、主人公が偽の霊媒師の舞台で嘘を暴くシーンへと続きます。
ストーリー的にはこれが序盤の扱いとなる演出で、冒頭の鬱々した感じが消し飛び、痛快な「偽霊媒師を暴け!」シーンとなりますね。
主人公グッドマン教授は髭面ふくよかな人物で、冒頭のこのシーンではカメラに向かって語りかけたり、コミカルな演出も交えますから、オープニングのしんみり感を客は一瞬忘れます。
舞台でも映画でもグッドマンを演じ、映画では監督もやっているアンディ・ナイマンですが、これまでいろいろお見かけしてきた俳優で、いい顔してるんですよ。野性味ある髭面ですがコミカルでもあり、目は鋭さと優しさを併せ持ってます。これが「ゴースト・ストーリーズ」では効果的で、幽霊話を信じず偽物を暴く無神経な男でありつつも、どこか悲しげな表情をずっと保っています。
さてお話はこの偽物を暴く男が昔から尊敬していた教授と会うことになりまして、そこで三件の書類を渡され「それを調査しろ」と意味ありげに命じられます。
映画的にはここからホラーショートストーリーが三本登場する構成となります。グッドマン教授は3人に会い、話を聞き、映画では再現フィルム的にその奇談が表現されます。
さてその3本の奇談ですが、これがすこぶるよく撮れていまして、とても出来の良いホラー短編となっています。いい演出です。とくに最初の警備員の話、それから次の青年の話、これはずば抜けていて気に入ってます。雰囲気良いんですよ。ちょっとした演出が。三つ目のは話自体はいまいちですが三人目の男自体が重要な役割なのでまああんなもんでしょう。
ふたつめの青年の話なんか超気に入りました。家族や「上の階」の件、そしてなにより怯える青年を演じたイギリス顔のアレックス・ロウザーという役者の味わいがたまりません。
アレックス・ロウザーに限らず、三件のそれぞれの人が三人ともめちゃ魅力的です。トニーを演じたポール・ホワイトハウスというおじさんも、重要な役割を果たすマーティン・フリーマンも、三人とも変でとてもいいです。
この映画、舞台劇を作った二人が映画化を果たしています。演出の件を結論先に言うと、ちょっとあれもこれも感が強くて、シーンごとにとてもいいんですがそれぞれのシーンがいろんな技法や過去の名作インスパイア系もあって、ちょっと一貫性がありません。冒頭の家族のフィルム、序盤のコミカルドキュメンタリー風味、話の節々に現れる伏線の品々と人々。そして映画の後半に現れる幻想風味や悲哀感。いえいえ、それぞれはとてもいいんですよ。とても良いんですが、もうちょっとその、舞台っぽさを残しても良かったんじゃないかと思ったりしますが、まあ好みの問題でありますゆえ、だから悪いとかそういうことは一切言いません。
世間のみんなは多分この映画を観たらこう思うだろうなというのがおぼろげに想像できます。
ひとつは中盤語られる奇談そのものの出来の良さですね、これは皆ほめるでしょう。ここに価値が大いにあります。
全体を貫くプロットではちょっと否定的な意見も出ることでしょう。もうちょっと伏線を効果的に使えなかったのか、たたみかけるようなシーンであるべきたたみかけるシーンをもうちょっとたたみかけたほうが良かったんじゃないかとか、あるいは過去の名作映画、ベトナム戦争絡みのJで始まるあの映画と似てるとか言って単にオチだけに注目して切り捨てるとか、そういうことがあるかもしれません。
私は「ゴースト・ストーリーズ」気に入ったので褒めるところを褒めます。
繰り返しになりますが主人公の哀しみを背負った目ですね。これがずっとありました。これは良かったです。伏線弱いとか全く思いません。フード男のありがちなデザインとか赤ちゃんに猫缶意味ないやろとか唐突なお化けはいまいちやったなとかそんな文句はありません(ちょっとはあるらしい)
三件の奇談のそれぞれがとても良いこと、これほんとここもっと詳しく書きたいくらいです。警備員の話では電話越しの同僚とか、青年の家の不気味さとか、細かく味わいだらけでめちゃ魅力的です。
伏線弱いどころか最後の数分に映画全てが表現されつくされたりしますし、あーっこいつもう見るからにインターンやん!とか、妙な細かいところがツボでした。
気に入ってますが、もうちょっと+何かがあれば傑作になってたろうなとは思います。