MovieBooの筆者は先日まで18歳でしたが時が急流に呑まれて気づくとそこそこの歳になっていました。老人になるのも遠くないのです。以前から老人と子供と動物と残虐の映画が好きでしたがいよいよ自分が動物になる日も近いのか、いや違った、残虐、いや、何だっけ、忘れた。老人の特徴は物忘れが度々起こることです。それと時間感覚がのんびりさんになることで、10年前のことを「このあいだ」と言ったりします。またあるいは記憶の分岐が混ざり合ったりもしてきます。「手紙は憶えている」はチラシをチラ見して老人が旅をする映画だなと思い込んで、そんな腹づもりで観てしまい、結果たいへんなことになりました。
またくだらないことを枕にだらだら書いてすいません。「手紙は憶えている」は老人がほのぼのと旅をするロードムービーではありませんでした。旅の動機からして攻撃的です。即ち戦争の古傷です。映画で戦争の古傷がある場合、多くがホロコーストとの絡みでありますね。老人ホームで半ボケの主人公は、ホロコーストの恨みだけは忘れません。そうです、如何に老齢になりボケ始めていて記憶があやふやであっても、人生の重要事項だけは忘れません。例え「ミスター・ノーバディ」みたいであろうともです。
「ミスター・ノーバディ」の老人が語る物語は完全にイッちゃってる老人パワーストーリーで、即ち記憶の分岐全てが現実化し、あやふやな記憶を含めて記憶の全てが事実であったというとんでもない映画でしたが、それが「手紙は憶えている」と何か関係あんのかと。あるともないとも言いたくないです。
他の映画で言えばもう一本「きっとここが帰る場所」という素敵な映画がありました。主人公の旅の目的が「手紙は憶えている」と似ていましたね。旅の物語、ホロコーストの後始末、どちらもそれぞれ映画にできるテーマですがそれをあえて混ぜてしまうという試みも共通しています。
「手紙は憶えている」の映画の内容についてはあまり書きたくないので書きませんが、旅の目的が復讐という暴力であっても旅そのものにはまろやかさがついて回ります。この両立があるというのが魅力なわけです。旅の途中で出会う優しい人々とのシーンがぐっと来ます。こういうシーンが大事ですよね。もし本当のほのぼのロードムービーなら当然だし、この映画のようなビックリ仰天映画であってもこうしたシーンがあるからこそ映画本編を面白く観ることができるという案配です。
ネタバレを避ける映画の紹介や感想に意味あんのか。と、思うこともしばしばあります。なぜなら、ほとんどの方が自分の見た映画について誰かの感想を読んでみたいなと考え訪れてくれるからです。
私自身、内容を何も知らずに映画を観るパターンが多くて、だからこそ心の底から楽しめたというのが実に多いんですよ。ホラーかコメディかミステリかというレベルの大体のジャンルも知らずに観るというのはさすがに希有の体験となります。この映画はそのような希有な体験のひとつでした。
何やら言い淀んでばかりいて読んでるあなたのイライラが伝わってきそうですが、もしあなたがこの映画を知っていて感想を聞きたいなら答えましょう。私は素直に心の底からビックリ仰天して、映画の作り手が想定する最高に理想的な観客となりました。作った人の甲斐もあったというものです。
唐突にいつ観たかも憶えていない「手紙は憶えている」でした。何故このタイミングでこの映画を?私は憶えていませんが下書きは憶えていたようです。