カトリーヌ・ドヌーヴは怖い人。と、何も知らずイメージだけで思い込んでいましたが、近年のいろんな仕事ぶりを見ていますと「実はめちゃ人間の出来た良い人なのではないか」と思い始めています。若手の映画人に協力したり、変な役を引き受けたりと、何だかカッコいい姿ばかり見ます。
「太陽のめざめ」の脚本・監督のエマニュエル・ベルコに関してカトリーヌ・ドヌーヴはこう言ったそうです。
「素晴らしい才能。彼女の書く脚本は1行たりとも直す必要がない」
そうか、普段は脚本に駄目出しして直させたりするですね。
やっぱり怖いじゃん?
ということで、仕事に厳しい大女優カトリーヌ・ドヌーヴが心優しい判事として社会から脱落する少年に向き合う「太陽のめざめ」です。主演を務めるのはフランソワ・オゾン監督の「しあわせの雨傘」以来6年ぶりなんだとか。ゴリラに惚れて悶える役で観る者を驚愕させた「神様メール」と同じ2015年にこのような愛情溢れるヒューマンドラマで主演を演じるカトリーヌ・ドヌーヴ、やっぱり尊敬できる大女優であります。
落ちこぼれの少年と忍耐強く対峙する女性判事という役が果たしてカトリーヌ・ドヌーヴにぴったりなのかどうかよく判らないところもありました。スチール写真だけ見ているときは無理矢理感あるな、偽善的映画に見えるな、などと失礼なこともちょっと思っていましたが「太陽のめざめ」を見終わるころにはそんなのは消し飛びます。
これ、良い映画ですよ。ほんとに。
ストーリーは、主に少年マロニーとフローランス判事(カトリーヌ・ドヌーヴ)の永い付き合いです。マロニーが6歳の頃に母親がブチ切れて立ち去って以来、不良少年となったマロニーとことあるごとに対峙します。マロニーがやけくその自暴自棄になっても忍耐強く、時に優しく、時に厳しく接し続けますね。「根っから悪い人間はいない」と、判事はめげずに温情の判決を出します。マロニーが厚生施設送りになるあたりはとてもいいですね、指導員や他の悪ガキどもとの関係を描くパートです。この後、映画のストーリーはいろいろと展開して進行しますが、悪ガキマロニーは更生もできず、判事は辛く、またやらかしたか、といった辛抱のお話になります。単純な感動ドラマとは異なり、観客が期待する通りの展開になかなかなりません。マロニーは都合のよい奴ではないのです。
マロニーを演じたロッド・パラドは演技経験ないのにスカウトされオーディションに参加して役を射止めた才能の青年。この映画で強烈デビューを果たし数々受賞もして、一気に注目の俳優となったそうな。
「太陽のめざめ」は2015年のカンヌ国際映画祭でオープニング作品に選ばれました。
カトリーヌ・ドヌーヴが非行少年の更生を導く判事の役というぶっ飛び設定の「太陽のめざめ」という映画です。これいい映画でした。
いい映画には漏れなくいいシーンがあります。
「太陽のめざめ」では非行少年が不良っぽく煙草を吸います。「おいこらタバコ出せよ」みたいなシーンもありますし、ただ格好をつけてキューっと吸うシーンなんかもあります。見ているこちらも一緒に吸いたくなります。「無煙映画を探せ」という嫌煙ブログではこんなとき煙草シーンの回数を丹念に数えて報告されるわけですが、真似して作ったこちら「紫煙映画を探せ」では映画を見ている最中に喫煙シーンの回数を数えている暇などございませんのでとても真似しきれませんです。偏執狂的神経症的行動に感服するばかりです。
さて「太陽のめざめ」でとりわけ素晴らしいのが少年院での喫煙シーンです。雨が降って作業が出来ないのでみんなぼんやり雨宿りをしています。煙草を吸い、無言の中で仲間との連帯を深めますね。煙草を配る職員と収監されている少年たちの信頼も深まります。実におおらか、非行少年に大人が人として接することこそが更生への道です。
非行少年たちの喫煙シーン、最高によいシーンでした。フランスの教育は実に素晴らしいですね。