まず「ついに全然おもろないスペイン映画と出会えるかも」という期待は完全に外れました。わりと心意気のある作品と思います。ただしやや困った脚本ではあります。んー。でもいい感じのところもあるし、なんてったって女優さんがとてもよろしいんです。カメラワークも凝っていまして、個性的でいい感じです。もう少し何かがあれば、とても良いと思える作品になっただろうなというのが率直な感想です。
まず冒頭の演出はとてもいいです。遺体の乗った台を病院の人がごろごろ転がしているクローズアップで、同時にメディアの音声だけが被さりアナ・フリッツが如何に人気の大女優かを語ります。冒頭の終わりではアナ・フリッツが自宅で亡くなっていたというニュース音声、直後に遺体をごろごろ転がしていた白衣の人間が携帯でアナの遺体を撮ります。ショッキングな冒頭です。ここまでの流れるような演出は時間の配分や映像の切り替えポイントなど、大変よろしいと思います。良作の予感に包まれます。
主要登場人物3人が出揃います。ここが脚本的に厳しいところで、リアリティのない三バカです。ひとりは病院勤務、後の二人はただの遊び人です。あろうことか、病院へ押しかけ屋上で酒飲んでヤクも回します。三人の馬鹿みたいな会話と馬鹿みたいな行動にまったく付いていけませんで、何だか乗り切れないなあと思いますね。
やがて安置所のアナ・フリッツを見ようぜ、と地下の安置所へ。あり得なさに拍車をかけます。さらに、ここで屍姦を行います。これは酷い。酒と薬のせいでついやっちまったというような設定ですが、もうね、これはさすがに乗り切れないどころか呆れ果てます。酔っていようがラリっていようが屍姦をついうっかりやっちまうなんてことはあり得ません。しかも登場人物、さほど酔ってもラリってもいません。ふつうの人ならここで観るのをやめます。
ネクロフィリアを扱うんだったらそれはそれで別の映画になりそうですがそれでも何らかの何かがないと説得力のかけらもありません。普通のやりたい盛りの若い男という設定での屍姦は無理ありすぎます。多分、本物のネクロフィリアの人が見ても怒り出すんじゃないでしょうか。
ただし、この屍姦シーンで大きな転換を迎えます。死んでたはずのアナ・フリッツがレイプの衝撃で生き返るんですよ。うわっ。なんだなんだの大事なシーンです。この映画をわざわざ観ようとしている人はその展開を知ってて観るんでしょうかね。私は知らないから心底驚きました。ここでネタバレしてますがいいですよね。みなさん、どうせわざわざ観ないでしょ?
で、ですね、この時のカメラアングルと、それから女優さんの目の演技、その後の顔の演技、これが素晴らしいのです。ちょっとしつこく映し続ける演出とも相まって、女優の力が存分に発揮されます。ここは見応えあるシーンだと思います。
この映画、全体を通して撮影がとてもいいです。捉え方や構図もいいです。
エクトル・エルナンデス・ビセンスという監督がどういう人か全く知りませんが、演出にもちょっと凝ったところがあって、妙なところをしつこく描いたり、やや文芸寄りというかニューシネマ系というか、そういう感じをちょっと受けます。
レイプされながら目を覚ますアナ・フリッツのこのシーンは壮絶の一言、とても価値あるシーンで、これまでの馬鹿馬鹿しく乗り切れない部分を何とかカバーできそう、と思えてきます。そしてアナ・フリッツを全力で応援しようという気持ちがわき起こりますね。
てなわけで、三バカと蘇り女優の話になってきます。三バカもそれぞれ個性を持たせており、一人は悪者、一人は遺体を見ることにも躊躇し屍姦などには全く参加しないいい奴、一人はどっちつかずの優柔不断な駄目男です。わかりやすいです。優柔不断な駄目男はめそめそ泣いたりします。スペイン映画ではめそめそする男がよく出てきますね。この男を演じたのはアルベルト・カルボという俳優ですか?「学校の悪魔」の少年ですね。この起用は素晴らしいですね。ま「学校の悪魔」の話はまたこんど。
最初の乗り切れなさは何とか消し去り、いい調子で続きを見続けたわけですがそろりそろりとオチに期待をするようになってきます。
つまり、馬鹿野郎どもを懲らしめたいと思うんですね、見てるこちらは。ですから、当然「アイ・スピット・オン・ユア・グレイヴ」ばりの痛快感を求めます。「やっちまえー」とかです。でもですね、ただやっちまうってあのもよくありません。アナ・フリッツが受けた陵辱の代償はちょっとやそっとの死では合いません。死よりも辛い恥をかかせたいですよね、思いませんか。
で、新しいアイデアとか強烈なオチとかまた別の何かあればよかったんですが、実際はまことに中途半端な代償でありつまらないオチとなってしまいましてですね、そのせいで見終わってもスカッとせず、もやもやとしてしまいました。
「レイプ・オブ・アナ・フリッツ」はネクロフィリアをきちんと描くでもなく、痛快復讐劇でスカッとするでもなく、リアリティがあるでもなく荒唐無稽な面白さがあるわけでもなく、何とも中途半端な仕上がりです。脚本に問題あるんでしょうか。脚本というか細かな台詞回しや話の流れは悪くなくて、じゃあ何が駄目だったんだろうと、これはプロットそのものに問題があるのかなあとちょっと思います。わお。全否定やがな。
ただ、スパニッシュニューシネマ的な(そんなものがあるんかいな)独特の良さはなくもありません。好きか嫌いかで言うと、もしかしたらちょっと好きかも。監督には今後も期待します。
ちょっと見てみたらこの監督はテレビシリーズの脚本家でキャリアがある人のようです。あぁ。重大な物事を描いても軽くなってしまっているのはテレビ脚本っぽいのかなあと思ったりしますがわかりません。
ほぼ映画のすべてをネタバレしつつ感想を綴ったわけですが、どうしても強調したいのはやっぱり女優さんです。
アナ・フリッツを演じたアルバ・リバスのがんばりがですね、大変よろしくて、強く印象に残ります。ですのでTwitterもInstagramもFacebookもいいねやフォローを惜しみません。
女優良ければ全て善し。おあとがよろしいようで。