靴職人と魔法のミシン

The Cobbler
下町の靴修理職人が先祖伝来のミシンを使って靴の修理をして試しに履いてみたところ靴の持ち主に変身してしまうという、童話のようなファンタジックコメディ。「扉をたたく人」のトム・マッカーシー監督作品というのできっとただ事ではないはずです。
靴職人と魔法のミシン

俳優のトム・マッカーシーが初監督した「扉をたたく人」(2007)はとても良い映画でした。ほんとに良い映画でした。どれくらい良い映画かというと、未だに何かの拍子に話題に出るくらいです。礼儀正しく知性的で優しい人たちの物語でした。
それ以降は特に追いかけるでもなくノーチェックだったのですけど「靴職人と魔法のミシン」がトム・マッカーシー作品と聞いて「おっ」って思って興味持ちまして、それで観ました。

イントロダクションによると「靴修理して履いたら持ち主に変身する」という、まあ、その、あまり興味の引かれない設定だったんですが、それでも「扉をたたく人」の信頼関係がありますから、つまらないわけがない筈と確信して挑みました。いえ、挑むと言うほど覚悟していません。軽く観ました。

そうするとですね、最初は先祖の靴職人の話から始まりまして、戦時のエピソードが描かれます。最初の時点ではまだ「?」の部分があります。その後現代に話が飛んで本編が始まりますが、おじいちゃんの時代から続く下町の靴修理店という、その下町テイストでまずは好感度上がります。1600くらいまで上がります。
そんでもって、仲の良いお隣の理髪店とか出てきますね。この理髪店主をスティーヴ・ブシェミが演じています。わおっ。ブシェミ出たっ。とか言って喜びます。このキャスティングにこの設定、いいですね、とてもいいです。好感度がまた上がります。

というような調子で、予想通り好感度12800増感くらいまで上がりまして、内容も面白くて、下町感もずっとあって、たいへん良い映画でした。
靴を履いたら持ち主に変身するというような極端な設定もどんどん違和感なくなりますし、そんなことより主人公の持ち味がいいのでまったく気になりません。設定は極端ですが、それ以外の部分がまるでフランスのコメディ映画みたいで、実はやはり根底には知性と優しさが満ちておりまして、私はこの映画とても気に入りました。トム・マッカーシー作品に外れなしと言って良いのではないかと思います。

と言いながら調べてみたら「WIN WIN 駄目男と駄目少年の最高の日々」(2011)といういかにもな邦題の監督・脚本の作品があったんですね。これは知りませんでした。いずれ観ます。
最新2015年は「スポットライト 世紀のスクープ」という、これまたいかにもなタイトルの作品もありますね。これもいずれきっと観ます。

「靴職人と魔法のミシン」ですが、お約束通りクライマックスには映画的盛り上がりの事件に関するシークエンスなどありまして、後はエンディング待ちの状態になります。
ここでネタバレはしたくないのですがどうしてもエンディングを褒めちぎりたいのでちょっとだけ匂わせます。

なんだかんだといろいろあって面白く終わりつつある最後の最後に、まず一瞬感動みたいなシーンがやってきます。ちょっと無理矢理すぎるやろー、って思いかけたんですが、その感動みたいなシーンの先には最高のネタを仕込んでありました。
これはギャグと言ってしまえばギャグです。でもエンディングに持ってきました。言い方を変えれば「意外な結末」「衝撃のラストシーン」「100%予測できない」「完全にやられた」と、そんな加減です。

ひとによっては、せっかくの感動を邪魔された上に小馬鹿にされたような気がして怒り出す人もいるかもしれません。いやいないかな。いないですね。でも「なんだこれは。馬鹿馬鹿しい」くらいは思うかも。

つまり「靴を履いたら変身する」という童話の根幹に関わる壮大なギャグをラストにかましてくれるんでありまして、これは面白い上にとても高度な技です。設定を童話として受け入れている観客は叙述トリックの罠に嵌められていたんですよみたいな。
私はもうね、こういうネタは大好きです。こりゃおもろい。好感度が一気に409600に上がりました。

ここまでネタを明かしておいて、ではそれがどのようなネタなのかと具体的に明かさず内緒にするという厭らしい筆者でごめん。

というわけで2015年も押し迫ってまいりまして忙しいさなかに軽く観て喜んで楽しんでわーってなってたいへんよい気分を味わえるライトな一本。ライトでいい感じの下町テイストで童話みたいな一本なにかないかなーって思ってるあなたにおすすめ。

[追記 2016年3月]

記事を公開していなかったのに追記するのも変な話ですが追記です。
「スポットライト 世紀のスクープ」っていういかにもなタイトルの作品ありますとか書きましたが、なななんと、アカデミー賞の作品賞と脚本賞を受賞したんですって!あらまあ!これはおめでとうございます。いかにもなタイトルとか言ってすいません。なんだかものすごく良さそうな映画ですね。

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