「V/H/S」シリーズの三作目、もういいよもうこのシリーズお仕舞いねという心を込めた「ファイナル」の邦題が付いてビデオスルーにて発売。出来の良かった1本目「V/H/S シンドローム」、人によっては褒める2本目「V/H/S ネクストレベル」の栄光はもうどこかにぼっとんと落としてしまいました。
3作目「V/H/S ファイナル・インパクト」は結構どうでもいい出来映えです。いや、むしろ酷いです。
1と2で続いていた「V/H/S」のストーリーの特徴は3にはありません。
即ち、誰かがどこかの部屋に入ってコレクションされている謎のビデオテープを一本ずつ見ていくという大筋の部分、これがありません。その誰かが撮った謎のビデオ一本ずつが収められているそれぞれの短編作品であるという「V/H/S」の根幹の設定を捨てたものだから、単なるPOVもどきの寄せ集め集になっています。
1と2で中心的人物だった才人アダム・ウィンガードが3では不参加です。
では行きがかり上仕方ないので一本ずつ見ていきましょう。
Vicious Circles
脚本:マルセル・サーミエント
出演:エミリア・ゾリアン, パトリック・ローリー
1本目というか全体を通すこの作品は、序盤、とっても綺麗な彼女を撮影する彼氏のお話です。この話が、ぶつ切れになって、途中で別のお話が挟まります。前作までの「ビデオを見るお話」の代わりですが、代わりになる意味は特になくて、ぶつ切りにした意図もわかりません。ただのぶつ切りです。
しかもこの短編、お話がさっぱりわかりません。
アイスクリームの車が警察の車に追われるカーチェイスをやっていて、それを撮影しようと彼氏が家を出ますが間に合わず「ちぇっ。間に合わなかった」とがっかりしていると彼女も家から出てきて、そして消えてしまいます。きっとアイスクリームの車にさらわれたんだと思い込んだ彼氏が自転車で追いかけます。
追いかけている間は、他の短編に切り替わります。
短編の隙間にまたこの話が出てきて、車を追っている最中に同時進行するさまざまな「変で残酷ないろんな人たちのエピソード」が挟まれます。
最終的になぜか車に追いつきます。
車の中は装置だらけでビデオドロームもどきっぽいモニター越しの彼女が「アップロードをするのよ」と変なことを命じます。青年は「できないっ」とかマンガ的に苦悩しながら、結局アップロードとやらをします。何やってはるんでるんですか、これは?
最後は薄暗い映像に水のシーンが映って、大袈裟なクラシック音楽が鳴っておしまいです。このナンチャッテ名画風の映像が最悪でして、表面的に過去の名作をなぞって雰囲気だけ真似しましたみたいな、恥ずかしい代物となっております。
ストーリーは、結局何がどうなったのかさっぱりわかりません。
ストーリーがあまりにもわからないので他のブログを拝見したらわかりました。謎の車が怪しい電波を出して携帯でそれを受信したら人々が狂うという話だったそうです。えええっ。そうなの?そうなんですか?そんなの、見てても全然わかりませんでしたよ。
・・・しかし、何でそれがわかるのか、わかった人も不思議です。
なにしろ、最低限のストーリーを伝えるという基本的なことすら出来ないボンクラがタルコやキューの物まねして自己愛に浸り世界がどうのこうのみたいな中二世界でマスかくというこの作品、わりと最低でした。
Dante The Great
脚本:グレッグ・ビショップ
出演:ジャスティン・ウェルボーン, エミー・アーゴ
この短編が変わり種です。魔法のマントを手に入れて魔法が使えるようになったマジシャンのお話で、とてもV/H/Sシリーズとは思えない完成度の高さが特徴です。わずか15分程度の短編の中に起伏のあるストーリーを組み込み、登場人物をしっかりと描きます。普通に娯楽作品として楽しめる完成度です。ただ、POVを無視します。もうね、V/H/Sシリーズとしては本パート3はすでに破綻していますから、この際どうでもいいんですね。
つまりグレッグ・ビショップはオムニバス全体の構想などはなから無視して、出来の良い短編を提供したと、ただそれだけです。
完成度はすこぶる高いのですが、その内容については個人的別に大好きというわけではありません。でも完成度が高いので好き嫌いはどうでもいいですね。
Parallel Monsters
脚本:ナチョ・ビガロンド
出演:ジガスタボ・サルメロン, マリアン・アルバレス
パラレルワールドへ移動できる扉を発明した男の話です。SFですね。ナチョ・ビガロンドの作品です。もちろん、本作中最高の作品です。これはかなり大好き。これはすばらしい。
パラレルワールドへの扉を開けると、向こうの世界の自分も扉を開けてこちらを見ています。「ちょっと交代してみる?」と、入れ替わります。ほとんど何もかもそっくりな別の世界です。でもちょっと違うところもあります。ん?ちょっとどころか、全然違うぞ。んん?全然違うどころか、こりゃいったい・・・!っていう話です。
この短編のすばらしさはもちろん細部にあります。会話の間の取り方なんか神がかっております。奥さんがマッチョ二人に挟まれてる図とか、プールの件とか、なんでこれほど面白いものが撮れるのか、ナチョ、あんたはすごくわかってるし、抜群すぎてマニアックですらありますよ。
「エンド・オブ・ザ・ワールド」の抜群の会話劇をよりパワーアップしてばかばかしさもパワーアップ、それでいて悲哀もあるし、相当な良作。
Bonestorm
脚本:ジャスティン・ベンソン
出演:ニック・ブランコ, チェイス・ニュートン
若者たちが死者の群れと戦います。
「モンスター 変身する美女」のジャスティン・ベンソンとアーロン・ムーアヘッドの作品です。「モンスター」は面白かったけどこれはさっぱり。
出だしはとてもいいんです。スケートボードに乗った若い子の疾走感、個性的ないい感じで始まります。ところがだんだんアホみたいになってきます。
死者の群れを呼び出してしまい戦うんですね。それだけです。ヒネりもなければ必然もなければ怖さもなければお馬鹿な楽しさもありません。つまり退屈で全っ然おもしろくもなんともないんです。
若者たちも乱闘してるだけで誰が誰なのかわからないし、単調な戦いシーンはゲーム映像をお手本にしましたかっていう酷い出来。「よし、○体やっつけたぜ」「おれを放ってお前は行け」「馬鹿野郎、いっしょに戦うんだ」学芸会にもうんざりします。
てな感じで、いい短編も入っていますが、酷いのがすべてを帳消しにしてしまいシリーズの最後を汚した「V/H/S ファイナル・インパクト」でした。
思いっきり貶してしまいましたが嫌ってはいません。多少つまらなくても作ることに意味がある。気にせずがんばれー。