セドリック・クラピッシュがパリの人々を群像劇風に捉えた2008年の作品です。
主軸となるのは心臓の病気で余命幾ばくもない青年(ロマン・デュリス)と、献身的に面倒を見る3人の子供を持つ社会福祉士の姉(ジュリエット・ビノシュ)の物語です。市場で働く人々、パン屋さんのおばちゃんとバイトの子、学生に一目惚れする歴史学者の大学教授、その大学教授の設計士の弟、有閑マダム、移民たち、そういった人たちが描かれます。
パリの群像劇と言えばミヒャエル・ハネケの「コード・アンノウン」を思い浮かべてしまうわけですが、もちろんこちらは人情下町ロマンスのセドリック・クラピッシュ監督作品であるからして、同じパリの群像劇でもハネケ映画とは全く異なります。片や冷酷で都市生活の病理を突きつけた作風、片や下町で人情でロマンスでポジティブな作風です。全然違うタイプの作品ですがどちらにもジュリエット・ビノシュが出ています。つまりジュリエット・ビノシュを軸に「PARIS」と「コード・アンノウン」を見ればパリの全てがわかります(んなわけない)
私は個人的にクラピッシュ監督の描く下町と人情、変化する都市への哀愁や愛着、ややベタなコミカル風味などは好きなのですが、ロマンス方面と刹那的享楽を賛美する方面があまり好みではありません。「PARIS」にはそれら全ての要素がそつなく入っていまして、だから気に入ったエピソードやそうでもないエピソードがありました。たくさんの物語が詰まった群像劇風の作りですから当たり前なんですけど、多分この映画を観る人の多くが、それぞれ違う箇所について気に入ったりそれほどでもなかったりするだろうと思います。「あそこはよかった」「あのシーンはいらなかったんじゃないの」と、人によっていろいろ思うところがありそうで、で、多くの人にそう思わせた時点で監督の勝利ですね。
多くの登場人物がいますから役者さんもバラエティに富んでいます。よく見知ったお馴染みの役者さんがまるで大物スター夢の共演とばかりに出演しています。いつものクラピッシュ作品の常連からここでこの人が来るかと思わせる渋い人選、やっぱり何となくオールスター夢の共演!って感じです。
病気の弟ロマン・デュリスや市場の面々ジル・ルルーシュにジヌディーヌ・スアレムなどクラピッシュ作品でもお馴染みの顔ぶれ、パン屋のおばちゃんは「フランス、幸せのメソッド」のフランスを演じるカリン・ヴィアールですね。この人も芸達者です。「デリカテッセン」に出ていました。市場のあのおじさんは見たことあるなあどこで見たっけかなあと思っていたらアルベール・デュポンテルでした。「アレックス」なんかが強烈でした。
大学教授のファブリス・ルキーニと学生メラニー・ロランという特殊なカップリングも見どころとなっています。二人とも演技派だし見応えあります。エピソードも面白いです。教授の弟役フランソワ・クリュゼの面白キャラは抜群で、この方「主婦マリーがしたこと」の時にも味わいが絶品なんて言ってましたが今となっては「最強のふたり」でもすごく有名ですね。
ジュリエット・ビノシュは魅力も満載で細やかな演技に言うことなし、精神分析医の役でモーリス・ベニシューが突然出てきてびっくりします。精神分析シーンはこの映画の中で最も面白いシーンでした。
まあ何しろいろんな人がわらわら出ていてお得感あります。パリをネタにさまざまな人をオールスターキャストがノリノリで演じるという、フランスで大ヒット間違いなしですね。実際すごくヒットしたそうです。
ところで「スパニッシュ・アパートメント」「ロシアン・ドールズ」の続編「Casse-tête chinois」の噂を以前から聞いていましたが、2014年の12月に日本でも「ニューヨークの巴里夫」のタイトルで公開が決まっているそうです。40歳になった彼らの優柔不断と恋のうじうじ、見たくないような、見届けたいような、どうでもいいような、どうでしょう。