明日の空の向こうに

Jutro bedzie lepiej
ポーランドとの国境付近のロシアのどこかです。駅に棲むストリートチルドレンの三人組、ヴァーシャとペチャの兄弟とリャパが決意を持って旅に出ます。いや、弟ペチャはまだ小さいので決意なんかわかりません。でもとにかく旅をします。ちびっ子たちの冒険と顛末、ちびっ子を観るためのちびっ子映画一直線。
明日の空の向こうに

監督のドロタ・ケンジェジャフスカは「木洩れ日の家で」の監督です。「木洩れ日の家で」では、子供たちのシーンがとても良かったので、子供の映画なら面白いに違いないと思っていましたが思った通りでした。

「明日の空の向こうに」の子供たちは兄弟と兄貴の友達の三人組、駅で寝泊まりする家なき子の浮浪児たちです。ロシアから国境を越えてポーランドを目指します。国境を越えさえすればきっと素敵な人生が待っているはずだと危険を顧みず旅に出るのです。

見どころはとにかくちびっ子です。とくに一番年下の弟ペチャくんの天然成分はちびっ子映画好きが悶え苦しむレベルにございます。
ちびっ子に興味のない人間が観ると見どころがほとんどありません。時々挟まれる音楽がとてもよいとか、物語の後半にそれなりのドラマが待ち受けているとかありますが、基本ちびっ子たちがだらだらと旅をする映画です。しかしこれがちびっ子観察映画としてとてつもなく面白いんです。どこまでが演出でどこまでが素なのかと、まるで手品を観ているような気分になります。兄弟の会話は面白いしドキドキハラハラさせられるしたまりません。

昨今はちびっ子好きを表明すると問答無用で小児性愛者の犯罪者と思われる節もあるらしくてちょっと緊張しながら書いていますが、いやもうマジで、このペチャとヴァーシャの兄弟のやりとりが面白すぎてですね、可愛くて生意気で強くて勇ましくてほんとにもう、ほんとにもう。

旅の途中でいろんな人たちにも出会います。例えばパンをくれるおばちゃんとか、それから結婚式をやってる人たちとかです。その都度やさしい大人たちに可愛がられたりするわけですが、この逞しい浮浪児たちはそういう大人の子供に対する哀れみを利用してずる賢く立ち回り詐欺師同然の手際で物を掠め取ったりします。

物語の終盤には何人かの大人たちが登場します。ここに来て始めて子供たちが子供になります。つまりずっと彼らの物語であったものが、彼らの物語ではなくなります。大人の世界に放り込まれ広い世界の中の非力な子供としての立場になるわけですね。これが観ているこちらからしてもちょっと寂しいし少年たちと同じように不安を覚えます。

その大人世界の大人、特に所長さんですね、彼ががまた良い演技するわけです。親切なのか、怖い人なのか、複雑なキャラクターです。物事の複雑な面を複雑なまま描きまして、それをきっちり演技します。たばこの煙にその複雑さが絡みます。

まあとにかく観ている間はペチャの面白さに圧倒されて大いに楽しむわけですが、ちょっと冗長すぎるところや情緒的なところがあったり、こどもたちのあまりの可愛さに映画としてのクールさを見失ってしまったのではと思えるような部分もなくはないです。「木洩れ日の家で」も、だらだらしたところがあって、こう言うとジェンダー方面から叱られそうですが女性監督らしい感情的な部分がやや観る人を選ぶのではないかと思えたりします。
公式サイトや予告編では傑作だの名作だの感動だの自画自賛がちょっと鼻につくところもあって、先に広報に触れてしまうと毛嫌いする人を発生させるのではと心配しないでもありません。まあ、広報に影響を受けるのも意味がないですので、ここはバランスをとる意味で敢えてわざと「特に傑作でも名作でも感動でもありません。でも子供が凄いんで見る価値あるんです」と言っておいてもいいかもしれません。

まあなんせ三人の子供たちを眺めているだけで間違いなく鷲掴みにされますし、個人的には素晴らしい映画であると思っておりますが。

あ、そうだ、最後の最後に思いつきましたが、この子供のナチュラル感、演技ですかなんですか手品ですかって感じはあれです、「ポネット」の感じとかなり近いです。
「ポネット」もほんとに子供が凄いのですが、本編中ほとんどすべてポネットが泣いたり喋ったりしているだけの冗長な奇妙な映画でした。でも凄かった。子供映画の部分だけを取り上げれば、「ポネット」にとても近い印象を受けます。

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