アッバス・キアロスタミ作品の凄さが演出にあるのか脚本にあるのかどっちだろう。そうだ脚本だけ書いて演出していない作品を観ればヒントになるかも、などと盆暗なことを思いついて軽い気持ちでDVDで観始めた「柳と風」ですが、ほんとつまらない動機ですいません。そんでもって、どっしぇー。
観ている間中悶絶しっぱなし息も絶え絶え心臓鷲掴み、のたうち回り壁を掻き毟ります。見終わってぐったりしてのたくってしばらくは身動きもできません。どんなサスペンス映画よりドキドキし、どんな恐怖映画より恐怖に包まれ、どんな感動大作よりも感情移入してしまいます。いつしか演者の魂が乗り移って画面の少年と同じ表情をしながら馬鹿面下げて観ていたことに気づきます。
見終わってぐったりのたくっているうちに徐々にラストの希望に想像が追いつき、猛毒で汚れた心が洗われ、じわりじわりと静かな感動の波がやってきます。
冒頭は小学校からです。
転校生を迎えた教室で分数の授業をやっています。
転校生はいい子っぽいのですが、窓の外の雨ばかり見ています。先生が優しく注意すると気を取り直しますが、また雨をぼーっと見ます。分数の授業もいい感じで、ちょっと続きをきちんと聞きたいとこちらも思ったりします。でも雨を見つめるアルダカーニ君もいい感じです。彼の故郷では雨がとても珍しいのですね。
先生の注意が度重なります。先生、いい感じです。でもあまりにもしつこいので最後には優しく「教室から出て行きなさい」と告げます。転校生は出て行きます。
残った生徒たちに先生が言います。「雨を見るなんて長いこと忘れていた。アルダカーニ君が気づかせてくれたよ」いいですね。いいセリフです。
転校生が教室を出て行くと立たされている生徒が他に二人います。ひとりはのっぽ君で「仕事がしたいから週二日学校を休ませて」と懇願している生徒、もうひとりはうっかり窓ガラスを割ってしまい弁償するまで授業に出てはいけないと言われているクーチェキプール君です。「今日中に父親に言って直しておくように」と強く言い渡されてしまっています。
父親は忙しいからと直してくれません。本当は「息子ひとりが悪いのではない。学校側がガラスを入れるべきだ」と、いえ、その通りなんですが、それを学校ではなくて息子に言っているんですね。
クーチェキプール君は授業に出たいので、今日中にガラスを買って嵌めなければと思っています。
そして転校生アルダカーニ君と出会い、仲良くなってガラス代を借りる手筈となります。
と、まあそんな感じで少年たちのお話は始まります。
何が素晴らしいって、少年たちです。そしてついでに特別すごいのがあって、それは転校生アルダカーニ君の妹です。
この妹、これすごいですよ。これはすごい。かわいすぎて見ていて死にます。その妹を見て自然な笑顔になっている少年たちにも注目です。嬉しくなって「バァ」を2回やるところなんか演技を超えています。多分観ているこちらも同じようにアホみたいな顔でへらへらしていたはずです。
話はころころと進み、ガラスを巡るクーチェキプールの困難と冒険が観るものを虜にします。
途中出てくるガラス屋なんかもたまりません。これはどこの笠智衆ですかという、なんかもうぜんぶが魅力的すぎていちいち書いてられませんが。
まあ、あの、基本少年の頑張りと困難の映画で、ちびっ子映画です。そして細かい会話や細かい仕草にのけぞり悶絶する作風です。マジでドキドキハラハラです。このサスペンスはそこいらのサスペンスを軽く凌駕します。
ちびっ子映画とか細かい部分に命が入りまくったような作風を嫌う人を除くすべての人にお勧めのスーパーナチュラルソリッドシチュエーションおつかい修繕ちびっ子映画「柳と風」でアッバス・キアロスタミが脚本だけでも相当に凄い力を出す人だと(今ごろ)はっきりわかりました。
ところで、この感想文で「友だちのうちはどこ」に言及していないのはこれを書いたときまだ観てなかったせいです。「柳と風」における「友だちのうちはどこ」感について言及しなかったのは寧ろよかったのかなと思っていますが「友だちのうちはどこ」についてはいずれまた。
すみません!
「特集:ちびっこ」のところでコメントさせてもらった者ですが(コメントというよりも、手紙)、書いた後で、「Moviebooさよなら、か」を読み、何だかもう、自分の書いたものがそちらへ届いていないのでは、と心配になってしまいましたので、この2014年2月3日・コメントをどうぞに再度さっき書いたものをペーストさせてもらうことに致します。
すみません、しつこくって!
あと、名前を書く欄にバカ正直に本名を書いてしまい、まさかそれが公表されるとは思わなかったもので(こんな失敗の繰り返し)、・・・どうしたらよいのでしょう・・・「特集:ちびっこ」で寄せたコメント欄の名前はもう、変えられないのでしょうね?・・・どうなのでしょう・・・・
もう遅い、とはいえ、今回は名前の欄に「美」とだけ書かせてもらいます(がそんなことしたってもう、「特集:ちびっこ」の例のコメント欄を見れば私の名前はバレバレなのでしたね。どうした良いのでしょう。
それでも、バレバレでもなんでも今回は「美」とだけ書かせてもらいます。
「美」より
2014年3月21日 12:01
とても面白く拝読させていただきました。
先程自前のDVD「鬼畜(松本清張原作)を見まして、・・・もう何べんも何べんも見てしまっているですが、見るものがなかったのでまたみてしまい、見終わって「この子役の男の子(長男役)」は今頃何を・・・」と疑問に思い、検索してみました。その流れ上、ここに行き当たりました。
そっから10近く他の映画の感想についても読ませてもらい、勝手に、貴方様に親近感のようなものを覚えてしまったのでしたが、
・・・素晴らしいです・・・ ひょっとすると同年代?のような気がしてしまうんですが・・・ (昭和41年生まれ)
しかし、もしもそうなのだとしますと、素晴らしいチャレンジ精神と言いますか、本当に新しい映画をたくさん見ていらっしゃる。びっくりです。
私は極端に昔の物に固執する傾向があるので(無理にではなく、自然とそうなってしまい)、新しい映画は敬遠しがち、なのですが、貴方様の感想記の数々を読んでいるうちに、見たいと感じられたものがいくつかあったりして、「何事も、偏見はよくないのだな」と反省させられた(ほんの少し・・・)次第です。
すみません、私事で恐縮ですが、偏見は良くない、で言いますと、実は、
私は若い頃から外国映画ばかりが好きで見てきまして(若い頃はシネマ倶楽部などに加入し、主にはフランス映画イタリア映画、その他諸々のアジア・中近東の映画等々見てきたのでしたが)、おかげで、ハリウッド映画を軽視する傾向が培われてしまい、・・・軽視されて致し方ない駄作が多いのも事実ですが、そうしたちり芥の中にも本物の貴石が存在することも承知しておりまして・・・例えば「カッコーの巣の上で」「ソフィーの選択」のようなものは非の打ちどころがない、と絶賛せずにはいられない、そのくらい好きな映画であったりします(他にもいろいろあるますが、すぐに浮かんでくるのはこの二つ)(貴方様の映画リストに「名探偵登場」もありましたが、ああいうのも、好きです)。
決まって私の話は長くなってしまいまして、…申し訳ありません。脱線・前置きが長過ぎて、なかなか本題に入れず・・・
そう、偏見は良くない、なのでしたが、・・・貴方様も日本映画はあまりご覧になられないとおっしゃっておりましたが、私の場合ですと、ここ数年で現代日本映画に対する印象が改められた、と言いますか、これは面白いと感じられる映画にいくつか出会えまして、以来機会があるごとに日本映画にチャレンジするようになってしまいました。
どれも所謂、変態・エログロナンセンス的な要素の強いものがほとんどなのですが、・・・意外なことに、三池タカシの映画が面白かったのです。
三池と言えば、Vシネマ=ヤンキー映画ということで、軽蔑対象の最高峰的な印象しかなく、当然見向きもせずに来たのでしたが、図書館で一つ目にしてしまい(当方アメリカに住んでおります)、日本への郷愁からつい借りてしまいまして、・・・以来「こういう日本映画って、いいな」と思うようになったのでした(若者映画もまんざらではない、と)
勿論それらは完璧とは言い難いです、が「牛頭」「ゼブラーマン」というのが面白く見る事が出来ました。
それから更にオダギリジョーやら浅野忠信主演の物をいくつか見、(「ゆれる」「明るい未来」「スクラップヘヴン」など)、久々に良いものを見た、という気持ちにさせられました。「茶の味」というものも楽しかったです。非常にくだらないのですけど。
まるで手紙のような長いものを書いてしまい、申し訳ありません。
もう少しだけおつきあいください・・・(ああ、私もピーター・セラーズ、ピーター・フォーク大好きです。いいですよねぇ、ほんとう)
若い頃は外国映画ばかりで、などと言いましたが、例外的に時代劇・所謂チャンバラもの・やくざ物は好きで見ておりまして、ひょんなことに、ここアメリカに来て(14年になりますか)、より一層、今度はSAMURAIものという形で図書館でDVDを借りまくることとなり、・・・時代劇に全く関心なし、でしたら申し訳ありませんが・・・異国の地にてより深く萬屋錦之介&市川雷蔵に親しむ結果となり、何と言いますか、独り、喜んでおります。
とはいえ英語字幕付きなので旦那も一緒に、積極的に、喜んで見てくれます、が悲しいかな、萬屋の良さだけはピンと来ないようで、やはりどうしても彼等にはMIFUNEの方が分かりやすいんですね。仕様がありません。
その妙な図書館のおかげで、古い黒沢映画(いわゆるフィルム・ノワール系統のものやら、いろいろ)に幾つも親しむこととなり、やはり白黒時代の黒沢こそ黒沢、という具合に、カラー以降の作品のほとんどすべてがもう、見ちゃいられない、と再認識させられました。
貴方様は黒沢映画やら小津映画などは見られないのでしょうか?
もう一つだけ言わせてください。
「特集:ちびっこ」も読ませてもらいました。
ほとんどが見たことのない映画でしたが(というか、超有名な「ミツバチのささやき」しか見たことありません)、私もちびっこものが大好きでして、数年前見てよかったのがフランスの「コーラス」でした。
やはり完璧とは申しません、が、確かに、ノスタルジアを駆り立てられ、またあの歌声に泣かされ、たまりませんでしたね。(蝶の舌のモンチョ君もとても愛らしかった。けれどあの最後はやや、そのものズバリが過ぎるようでいただけない気も致しますが)
「ミス・リトル・サンシャイン」も面白かったです。
・・・こんなことを書いていたらもう、きりがありませんので、無理やりこれを送信させていただきます。
本当に貴方様の映画感想録、楽しく読ませていただきました。
又のぞかせてもらいます。
貴方様は一体、どのようなお方なのでしょうか?!
非常に気になります。
長々と失礼いたしました・・・
先にもう一つのほうを見て、そちらにコメント書きました。→特集ちびっ子
本意ではなさそうでしたので、コメント欄の名前を少々変更しておきましたが、それでよかったですか?
ところでこの「柳と風」ですが、これはちょっと凄かったです。我が家ではちびっ子映画の新たな地平として歴史に刻まれました。