舞台は1957年のフランス領アルジェリアです。独立運動の紛争が絶えない時期にフランスで成功した作家コルムリ(ジャック・ガンブラン)が帰郷します。
大学での公演で共存を説き平和的解決を呼びかけるものの、血の気の多い学生たちから集中非難を受けたりします。世は暴力へ傾倒している時期なのです。作家コルムリはアルジェリアを憂いています。
母親の元を尋ね、そして幼少期の記憶を呼び覚まします。この後、作家コルムリの幼少期のお話へと映画はシフトします。
随分前に観た「最初の人間」です。どんな映画だっけ、と細部を忘れていて、思い出してみたらどんどん思い出してきました。これ、たいへんいい映画でした。MovieBooという映画感想ブログはほとんど自分のための備忘録であるとあらためて感じ入る次第です。
映画の構造は、紛争中の故郷で母と会う作家の大人パートと、思い出の少年期パートで出来ています。
少年期のパートはノスタルジックで美しい景色や街並みに満ちた世界での生い立ちです。家族や教師やいろんな人たちとの関わりの中で少年に育まれる理知と知性の博愛の物語です。
大人パートは、作家が母親や懐かしい人たちに会いに行ったりします。祖国の状況への憂いと苦悩の理由が、少年期と記憶と重なります。
愛に満ちた母親、厳格な祖母、そして貧乏な少年に学びを進める知性あふれる教師、アルジェリア人の友人や味わい深い煙草飲みの叔父さんたちです。少年の理知と良心はここで作られます。
良いエピソードに満ちていますし、映像もとても美しいです。
文字が読み書きできない母や祖母の絶対的な愛、知性の力を信じて貧乏な少年に学問への道を開かせる恩師、人生を教えてくれる叔父、アルジェリア人の友人、それぞれほんといい話が紡がれます。
映画の冒頭に登場する寡黙な成功作家がどのような人間なのか最初はもちろんあまり判りませんが、幼少期パートを経ていくに従ってぐんぐん魂に触れてくるようになってきます。
大人になった作家が再び旧知の人々をを訪ね歩く展開になってくるころには、だんだんと観ているこちらは心を打ちのめされたりします。ノスタルジーに満ちているけれども単なる感傷などではない、真の苦悩が伝わります。
彼は知性と良心ある人間です。紛争最中の故郷を哀しく見ています。少年時代のアルジェリア人の学友を訪ね、友人が敬語で話すのに触れたとき、作家もそしてこちらも胸が苦しくなります。
貧乏で政治的にも優れていたとは言い難い少年期のアルジェリアですが、美しい景色や人間の魅力に満ちていました。少年にとって景色は輝いていたこともあります。
映画の最後のほう、海岸の林を駆け抜ける少年のシーンに震えます。
作家の苦悩は50年代のアルジェリアも21世紀の戦争時代である現代も同じです。
アルベール・カミュの原作は自伝的な内容かつ未完成作品で、他の作品とは違っています。
カミュは交通事故により死亡してしまったんですが、事故現場付近に落ちていた鞄の中から発見された原稿なのだそうです。
カミュの最期を思いながらこの映画のラストシーンを見ると胸がきゅーっとなります。