ホルテンさんのはじめての冒険

O' Horten
明日が定年の生真面目な鉄道運転士ホルテン。前日の宴会で建物から閉め出されてから何やら歯車が狂い出す。
ホルテンさんのはじめての冒険

定年退職の前日の宴会で「飲みに行こう!予約はしてある」と同僚と向かう先はパブではなく、入り口に鍵のある共同住宅。そう、北欧では庶民はお店になどホイホイ出かけない。宴会は誰かの家でやるものだそうです。

この建物の暗証番号式の鍵が具合悪く、主役のホルテンさんは閉め出されてしまいます。宴会場にたどり着けません。で、どうするかというと工事中の足場を上って見ず知らずのお宅の窓から侵入を試みます。
窓から侵入すると、その部屋で寝ている子供に気付かれてしまい、その子のお話に付き合うことになってしまって今度は部屋から出られません。そうこうしているうちに朝になり…
と、そんな感じで、定年記念の宴会に参加できぬまま朝を迎え、長年の勤務歴で一度も休んだことも遅刻したこともないホルテンさんは翌日の最終勤務日に遅刻してしまいます。
定年を迎えるその日、勤務最終日の遅刻によって、これまで真面目一本だったホルテンさんの何かに火がつきます。
それからがこの味わい深い映画の本当の始まりです。

「ホルテンさんのはじめての冒険」という邦題ですが、このタイトルから想像するような、お気軽冒険コメディではありません。どちらかというと淡々とした進行の渋めの作品です。コミカルではあるけれどコメディ映画でもありません。そこ勘違いしないようにお願いしたいところです。

老人と言っては失礼な年頃の定年間際のおじさん、ホルテンさんを演じるのはボード・オーヴェという役者さんです。この人、深みのあるいい顔をしていますね。この若干無表情でキリリとしていて、それでいておとぼけ顔の、いい感じです。このおじさんが定年する最後の日に逃避行を行う内容です。
年寄りの映画は良いです。ここ数年、老人映画が大いに自分の中でも台頭しておりまして、それはもちろん自分が年を取ってきたからというのもありますが、大人向けの映画ってのはもっと必要だと思います。

ええと。さてホルテンさんの小さな逃避行、あちらこちらに行って、いろいろな人と出会います。
それぞれちょっと良いシーンと短い会話があり、特に後半には自称発明家の老人と出会うことになり、ほんの僅かにマジックリアリズムの手法を用いた部分があります(ドライブのシーンですね)この瞬間が私の好きな”映画の世界”を感じるところです。とてもよいです。

可愛い曲のサウンドトラックもいいですよ。

ベント・ハーメル監督と言えば「キッチン・ストーリー」とのことで、「キッチン・ストーリー」を観た人には「ホルテンさん」が一筋縄には行かない作品であるということも合点していただけるのでしょうか。私は未見なのでそのうち是非鑑賞したいと思うております。

2010.05.30

その後。
キッチン・ストーリー」観ましたが、なにこれ最高。

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