松たか子と阿部サダヲの夫婦の演技が全てを呑み込みます。
いやほんと、松たか子がこれほどの女優に育つなんて昔の人は考えていませんでしたねえ。渋いいい演技しますよねえ。
中盤まではファンタジックなコミカルタッチでテンポも良くかなり面白いです。
後半はだんだん深刻になってきて、それと群像劇風に都市生活者の女性たちを同列に描いたりしますからやや散漫になってきます。
夫婦の物語だけをじっくり追う映画なのか、夫婦を狂言回し的に女性たちを描く映画なのか、多分両方をやりたかったのだと思いますが絞り込んでもよかったのになあとちょっと思ったりしますがちょっと思っただけですすいません。
夫婦の面白さに比べて、被害者女性たちの物語がやや類型的で情緒的すぎたのが好みでなかっただけかもしれません。
あとやはり終わりかたがくどいです。主人公含め登場人物それぞれのその後のさわやかシーンとか全然いりませんし、説明過多は個人的に苦手です。
「ディア・ドクター」のときも思いましたが、無駄に尺が長いと感じるのは、ラスト近くの感情的なくどさのためです。
とはいえ、そんなのは些細な好き嫌いレベルの感想でして、全体的にはやっぱりとても面白いです。西川美和監督は、貴重な日本人監督の逸材のひとりです。文句言ってる場合ではなく応援しなければいけません。
「夢売るふたり」を観ていて思ったのは、とても日本人的な物語で、日本国内でしか内容や意味が伝わらないんじゃないかということでした。
阿部サダヲのキャラクターで結婚詐欺というのがそれです。落ち込んでいて情けない男であるということを利用するんですね「この人を何とかしてあげられるのはあたしだけなの」みたいな女性の心理を利用します。こういうの、私は昔名付けたことがあります「しめしめ派」といいます。
「しめしめ派」は、女性に「このひとのためにあたしが何かしなきゃ」と思わせます。そしてその様子を見ながら内心「しめしめ」と思うのです。
「しめしめ派」の反対語は「ドラマ派」です。ドラマを盛り上げ、女性の目をキラキラさせます。つまり女性攻略の…まあそういう話はどうでもよろしいが。
で、このネタ、こんなので結婚詐欺が可能であると日本人なら合点ですが、世界に通用するでしょうか。
最初は「これ外人が見たら意味わからんのとちゃうやろか」と思いました。けど、思い直しました。意味がわからないながらも、こうやって攻略されている表現がきっちりなされているので間違いなく伝わるはずであると思い直します。
この作品のように、日本的な事柄を日本的に描く映画こそが世界に通用する日本映画なのではないだろうかとおもっています。
表面的に世界に通用するふりをしながらその実なんの普遍性もない映画なんかより、世界に通用しないローカルネタながらその実普遍的な力に満ちた映画のほうがいいに決まってます。
というわけで西川美和監督の作品は好きなのでチェックしております。
松たか子の怪演は必見の域です。ファンタジックでコミカルな犯罪者物語、夫婦の愛の物語、あるいは夫婦の愛とは何であるかの物語としても楽しめます。いい映画でした。
返す返すも後半の群像表現とエンディング近くのさわやかシーンが惜しかったです。しゃきっと終わりましょうよしゃきっと。