日本では2010年に公開されるやいなやたちまち話題沸騰、観た人絶賛の「シルビアのいる街で」ですが、興味あったのに旬を逃してもたもたしているうちにすっかり忘れてまして。
で、何かの映画を観に行ったときに目に入ったホセ・ルイス・ゲリン映画祭のポスター。「8作品一挙公開」とかそんな感じで。このポスターを見て、公開時に興味あった「シルビアのいる街で」を思い出したわけです。
ぜんぜんどこの誰とか知らず、何となく新鋭の新人監督みたいに思っていましたがそれは勘違いだった模様。ベテランではありませんが何本も映画撮ってますし、年も若くないです。
ホセ・ルイス・ゲリン映画祭は今年2012年の春ごろから順次全国で行われていまして、今現在もどこかでやっています。
特集上映の詳細で始めて知ったんですが、どうやらビクトル・エリセが絶賛※1 している監督らしいとのことで、さらに監督が敬愛する人として小津や芭蕉の名があがっており、その情報が駆け巡ったために「シルビアのいる街で」は日本でも話題になったそうな。
あぁ、それならきっと自分も大好物に違いない、と確信です。物語る映像を堪能できるだろう、しかもビクトル・エリセが褒めるほどなら、ずば抜けているに決まっていると、遅まきながら一昨年の情報に今頃心躍らされて俄然観たくなって、それで観ました。
フィルムの終焉が語られて久しいですが、この「シルビアのいる街で」はそんな声をはじき飛ばす勢いのフィルムによる映画、映像としての映画、映画としての映画、体験としての映画、対話としての映画、五感鋭く研ぎ澄ます映画の力を再発見できる素晴らしい一本でございました。
ビクトル・エリセが絶賛ってのもわかります。「ミツバチのささやき」と同様、映像表現が映画そのものを語っているという点が共通しており、まるで後継者のようです。
物語はひとりの青年がフランスの古都ストラスブールにやってきて女性を探すだけです。ある女性を見つけて「シルビアだ」と思いますが確信がありません。で、つけ回します。ほとんどそれだけのストーリーです。彼の事情の多くは語られません。
街を堪能するもよし、美女を眺めるもよし、彼の物語を想像して楽しむもよし、桁外れの技術力で撮られた壮絶映像を堪能するもよしです。もうちょっと詳しくというと以下な感じです。
ただ街を練り歩くだけの映画ですが、その中に多くの要素が詰まっていて、それぞれの要素が観る人の嗜好に応じるような作りです。
変わった作風を好む人なら、無駄を極限まで削り落としたシャープな実験映画として堪能できるでしょう。ただ歩くだけの映画にこれほどの力を持たせられるのかと感嘆するはずです。
カフェやストラスブールの街並みが大好きなオリーブ少女的な人なら、街の様子やカフェを見ているだけで楽しくてしょうがなくなります。今すぐここに住みたくなります。
人間を観察するのが好きな人は脇の登場人物のそれぞれの動きや働く様を興味深く見つめることができるし、美しい女性を眺めるのが好きな人も美女づくしで大満足。
映画の構成に興味がある人は完璧な人の動きと計算され尽くした構図や構成に驚愕します。素晴らしい絵面にも感動するでしょう。
ドラマ派の人は主人公青年の事情を空想して、思いの外深い物語性と青年の心理表現に気づくでしょう。場合によっちゃキモいですが、それも含めた青年の心の奥です。ある出来事を境に、美女しか見えていなかった青年の目にすべての人が自然に映り始めるのを目撃してドラマを強く感じること請け合い。
音に興味を持つ人は雑踏とその効果音にコテンパンに伸され、脳をこね回される体験が出来ます。無意識にへらへら顔になっていることに気づかぬかもしれません。
カメラ※2や撮影に興味がある人は、反射や透過を利用しまくる映像表現に目を奪われ心臓の鼓動が高鳴り腰が抜け椅子からずり落ちます。
映画祭では、この元になった構想の「シルビアのいる街の写真」という作品も上映しています。
それらすべてが好きな人は私と同じようにただただ感嘆しうんと呻って気絶するでしょう。
まあなにしろホセ・ルイス・ゲリンの完全主義者っぽい演出、それを具現化した撮影ナターシャ・ブライエの技術力に誰もが驚愕すること間違いなし。ついでに、追いかけ回される美女ピラール・ロベス・デ・アジャラの美しさと魅力にも誰もがイチコロです。
ホセ・ルイス・ゲリン映画祭、渋谷ではとっくに終わっていますがまだ今やっているところや、これからやるところもあります。もしご近所で上映される機会があるなら、迷わず劇場に出向くことをお勧めします。
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