少年の記憶に刻み込まれた場所と女性。デジャヴを得ます。「君とはどこかであったことがあるようだ」いえいえ、ナンパしてるんじゃありませんよ。
その記憶通りに、大人になった元少年は女性と再会を果たします。ロマンチックですね。
ストーリーは一時期のSFど真ん中です。記憶、時間、デジャヴ、未来。タイムトラベルのパラドックスからさらりと身をかわし、時間というものの冷酷さとあやふやさを個人の「思い」に込めた哀愁SFです。いつしか定番になった典型のようなお話ですが、62年ですから先駆けと言っていいですよね。
「ラ・ジュテ」は美しい白黒写真をあしらって構成されており、スチール写真による紙芝居のような作品です。内容はロマンスと哀愁が全面に出ていて、SFなのに愛のフランス映画っぽいところが渋いです。
哀愁とロマンスと愛の大人っぽいSF作品ですが、ごく一部、ちょっと笑える箇所もあります。大人向け物語として突き進んでいるのに「全産業を活発化させるエネルギー」とか、魔法のような何かわからないものを未来人の兄ちゃんたちに貰ったりするんですね。突如漫画的形相を帯びたりします。このような昔のSFにありがちな、子供っぽい設定が顔をのぞかせたりするところがお茶目で面白いです。
でも実はそれすらも罠なのでありまして、じゃあ「全産業活性化エネルギー」は馬鹿馬鹿しくて「時間旅行」は馬鹿馬鹿しくないのかと問われればベクトルとしては同じくらいばかばかしいものなのです。
SFであると同時に、実はSFでも何でもなくて、今際の際の一瞬の夢を描いた文芸作品という理解が可能なことがわかります。夢の具現化を考えるとき、白黒スチール写真だけで構成されている理由にも大きく合点するという案配です。
「12モンキーズ」の元ネタということで、その筋の人にとっては見たくて見たくて仕方がなかった「ラ・ジュテ」は、今では普通にこうやって拝見できるという良い時代です。ありがたい。
女性の印象深い顔で締める哀愁部分や飛行場シーン、物語すべてへの根源的な不信感など「12モンキーズ」は細部こそいろいろ変えていても根底にあるテーマはかなり忠実に再現しています。驚いたのは動物が登場する部分ですね。博物館の剥製として登場する「ラ・ジュテ」の動物たちが「12モンキーズ」ではぶっ飛び動物シーンに変換されます。壮絶なまでのリスペクト、驚くべきセンスでした。「12モンキーズ」がまた観たくなってきますよ、うずうず。
全編スチール写真で構成された「ラ・ジュテ」は、SFであると同時に夢の具現化と書きましたがその通り観ているうちにぽわわ〜んと夢気分になってきます。そしてあるシーンのわずかな部分にほんの一瞬テクニカルなマジックを施してあります。この一瞬のシーンのすばらしいこと。この瞬間、脳血流が倍速でうごめき、こめかみの血管を流れるざーっという音が聞こえた気になるほどの美的興奮を味わえることでしょう。
そのシーンがどこのシーンか、どういうテクニカルなシーンなのか、もちろんそれはご覧になって肌で感じていただければよろしいかと思います。この大事な部分をネタバレしてしまう気はさらさらありません。
1921年生まれの監督クリス・マイケルは作家であり写真家であり映画監督でドキュメンタリー作家で、いわゆるマルチアーティストですね。
第二次大戦中はナチスに対抗したフランスとの地下組織にも参加、戦後はユネスコの職員として世界中を飛び回ったのだとか。
1966年に製作会社SLONを設立してオムニバス「ベトナムから遠く離れて」を製作しました。
現在パリ在住だそうで、長生きされていますね。永遠に生きてください。
追記。2012年7月29日、パリで逝去されました。91歳。黙祷。
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