シアターN渋谷の該当記事 ではじめて知ったのですが「アイ・スピット・オン・ユア・グレヴ」は1978年に製作された同タイトルのリメイク作品だそうです。
この1978年のメイル・ザルチ監督「アイ・スピット・オン・ユア・グレヴ(お前の墓に唾を吐く)」は日本では紆余曲折の不遇映画だったようで、それで伝説を生んでカルト化したとも言えますが、上記ウェブページの情報によりますと、最初の公開は「発情アニマル」というポルノ映画として、テレビ放映時には「女の日」になり、ビデオ化されたときには「悪魔のえじき」となったという、デタラメな日本での紹介ぶりです。
とはいえ、復讐モノの元祖として70年代後半のいくつかの作品とともにカルトの位置を確立し、後のタランティーノ作品やスリラー映画の「復讐バイオレンス」たちに多大なる影響を与えた師匠のうちのひとつでもある、とそういうわけなんですね。
復讐モノ、特に女性が復讐するバイオレンスは今ではすでにジャンルと言っていいほどの勢いです。なるほどなるほど。いや素晴らしい。
さてそういうわけでそのカルト作品のリメイク「アイ・スピット・オン・ユア・グレヴ」の出来がどうかといいますと、これはいいですよ。
たいへん良いです。物語の構成は単純明快、しかしながら個々のシーンの緊張感は一級品です。適度な端折り具合もセンス抜群。
潔くて直球でじっとりするところはこれでもかという威力、ことさら説明的な蛇足を加えるでもなくB級テイストやギャグに逃げるでもなく、さらに小気味よく今風の細やかな演出も見て取れます。
何も知らずに期待もせずに観て、久しぶりに我が家の映画部屋では見終わった後夫婦揃って「おっ」「おっ」と目をキラキラさせて映画的興奮を味わいました。「これは来たな」「来たな」これはあれですね。名作リメイクの「ヒルズ・ハブ・アイズ」を見たときの興奮と似ています。何も知らずに「ホステル」を見たときの興奮とも似ていますよ。これら作品がお好きな方にはおすすめできます。
と、ここまではオリジナル版との比較がない場合。
オリジナル版が大好きな人にとってはどうでしょうか。どうも「物足りなさ」はあるようです。リメイクするなら、見る人全員が不快感を示すくらいの突き抜け方が必要じゃないかという、そういう意見が出てもおかしくはありません。
私は元の作品を観ていないので判断保留です。
たとえばオリジナルが「悪魔のいけにえ」みたいな歴史的名作であった場合はリメイクするより再上映するべきですし、さっきもタイトルを出した「ヒルズ・ハブ・アイズ」みたいに明らかにリメイクのほうが名作な例もあります(これも個人的見解か・・)
今時の映画としてのちょっとした欠点があるとすればそれはやっぱり登場人物の清潔感でしょうか。マリファナは吸っても煙草は吸わないとか、妙な真面目さがアメリカ的変さに満ちています。時々読ませていただいているホラーSHOX [呪]さんの該当記事の中で「わるもんのくせにきれいな歯しやがって、このやろうめ」と書いておられます。確かに。
でもその妙な真面目さが面白さを生んでいる部分もあるのでして、悪者たちの上下関係や田舎臭さなどの惚けた面白さと直結していたりします。
もう一つ着目すべき点は、我が映画部の奥様が指摘した「女性映画」としての側面です。
こんな酷い映画に女性視点も糞もあるかとお思いでしょうが、さにあらず、とても細やかなる女性視点が随所に見て取れます。
たとえば、彼女は復讐の品々を巾着袋に丁寧に詰めてきてですね、それを披露します。
しゃがんで巾着袋からいろいろなグッズを取り出すシーンがとってもキュート。女性的な視点での細やかな演出と演技ですよ。きっとおうちを出る前に必要なグッズ(お魚やお薬や小動物)をひとつずつ巾着袋に入れて、使うときの順番とかをシミュレーションしながら準備したことでしょう。
ここまで書いておいて今更ですが「アイ・スピット・オン・ユア・グレヴ」はストーリーが単純なのでちょっとどういう映画か紹介するだけで即ネタバレになります。キーワードを言うだけでどんな映画かわかります。それは、レイプと復讐です。まあ仕方ないか。
そんなネタバレは大きな問題ではないということでお許しを。こういったバイオレンス作品に拒否反応がある方はぜったいに観てはいけません。