貧困、庶民、弱者、ハードボイルド、淡い夢、寡黙ながら熱い心。間と侘び寂び。アキ・カウリスマキの映画が好きな人にとってはどれも堪らない魅力です。
この「マッチ工場の少女」は日本でも一気にファンを増やした作品ではないでしょうか。他の作品を観ていなくても「マッチ工場の少女」は観た、という人も少なからずいるような気がします。あるいはまた、この作品を観たことによってアキ・カウリスマキのファンになったという人もいるかもしれません。世代的・類友的・単なる身近な統計上参考にならない例に過ぎないのかもしれませんが。
というわけでカティ・オウティネンが主役を張って孤独な女性を演じます。
マッチ工場に勤める労働者階級の娘で、狭いアパートで家族と暮らしています。
孤独でどちらかというと貧困気味、楽しいことなんか何もない、息が詰まる、私だって遊びたいのよ、と、そういう女性です。
給料は生活費に消えるだけでむなしさ満点、ある日衝動的に貰ったばかりの給料でドレスを買います。
母親は怒って「返品してこい」と命じます。でも返品せずに、ヤケクソのようにドレスを着てディスコへ向かうのです。
ドレスは着ていても表情はむすっとしているし、どう楽しんでいいのかわからないし、期待だけはあるものの居心地悪さに観ているこちらもむずむずするこの間の取り方が超絶個性的。
と、まあそんなこんなで、むっつりしていてプライド高くて貧乏で孤独で辛い気持ちばかり持っているこの女性がどうなっていくのか、淡々とそれを描きます。
他のいくつかのアキ・カウリスマキ作品に比べて、この作品は比較的真面目でクールな作品です。コメディ的な部分があまりありません。笑えるところはありますがその笑いは単なるマニアックな笑いであり笑いの後の辛さを味わうための伏線笑いでありカウリスマキファンのにんまり笑いであり、ピュアな笑えるシーンというわけではありません。
むしろこの監督を知らずに観たら、かなり暗くて辛い映画に思えるかもしれません。
でもこれはやはり可笑しい映画と言わざるを得ません。つまり、こんな変な映画はそうそうないということです。
カティ・オウティネンの魅力が炸裂し、奇妙な筋立てとセリフ、そして音楽、そしてお店や家庭など環境の絶妙なる演出。
カウリスマキを知らない多くの人がこの作品を見て「こんな変な映画観たことない」と思うでしょう。
そしてアキ・カウリスマキの虜になっていくでしょう。
アキ・カウリスマキは1983年「罪と罰」で注目。間と侘び寂びの魅力で日本でも絶大な人気があります。
「罪と罰」のページに他作品の一覧を書いていますので良かったらどうぞ。
DVD-BOXは壮絶なまでのプレミアが付いてしまっているので見るのは難しいかもしれませんが場末のレンタル屋さんとかにたまにあったりします。
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