トリュフォーはこの映画の企画を長年温めていたそうで、テレビでイザベル・アジャーニを見てすぐに脚本を書き上げたらしいです。イザベル・アジャーニありきであり、イザベルにとってもこの映画が世界的大スターへのきっかけとなった大事な作品。「この映画のおかげで今の私がある」とイザベル・アジャーニは後に語ったそうです。
さて「この物語は真実の物語である」なんて宣言して始まるこの映画の冒頭は入国する人々の姿から。その中に何やら美しい人が混ざっています。馬車に乗り込み、あまりいいホテルがないので下宿を紹介してもらって腰を落ち着けますが、気品があって育ちの良さそうなこの女性、一体何ものでしょう。何しに来たのでしょう。
実はこの映画、初見です。初めて見ました。イザベル・アジャーニ命なのに何ということでしょう。ファンでしたが作品自体はあまり観ていなかったりします。いや白状するとイザベル・アジャーニ命というより「ノスフェラトゥ」のイザベル・アジャーニ命だったのでした。大ファンと言いふらしていてもこの程度だったりします。
そんなことはともかく、どうやら美女アデルは男前の兵隊さんに恋い焦がれて外国まで追っかけてきたらしいんですが、一体全体、この恋の物語の何をもって「真実の物語である」とか実話宣言してるんだろう、と、映画の内容を全く知らなかった私は途中までずっと思ってました。だから多分このアデルという人が誰なのか最初から知って観る人よりずっと楽しめたはずだと思っておりまして、すごくお得でした。
古典的な技法で描かれたこの映画は、映画自体にも品があって落ち着いていてうっとりするほどの出来映えです。油断していると50年代の映画みたいに感じてしまいますね。いいですね。
手紙を書くシーンの大きな手振りやモノローグなど、随所にすごく懐かしい映画の香りを込めています。あの映画独特の嘘くささというのはほんとに味わい深いですね。
イザベル・アジャーニは後半になっていろんな姿、いろんな表情を見せてくれます。イザベル七変化、どの姿もどのお顔も美しい。こんなのを今まで観ていなかったとは不覚。
でも公開当時に観ていたらファンになりすぎて人生が狂ったかもしれないので丁度良かったとも思えます。
この映画の時、イザベル・アジャーニは18歳だったそうです。まあこの方は18歳だろうが50歳だろうが全然変わらない化け物系でございますねえ。
で、実際のアデルがカナダに渡ったのは33歳の時だそうで、年齢に開きがあります。「真実の物語である」というわりには設定を脚色しておられます。かといって問題はありませんけど。
トリュフォーも年齢のひらきについて「誰もそんなことは考えないだろうよ」と答えただけだったそうな。その通りですね。
で、真実の物語であるというからにはこの主人公アデルが誰であるのか、それが明らかになるのは最後のほうですのでここでは紹介しません。もしかしたら「誰それの話である」と公開当初から秘密でも何でもなく公然だったんじゃないかとも思いますが、知らずに観たほうが衝撃なのでお得です。
下宿のおばさんサンダース夫人(シルヴィア・マリオット)や本屋の旦那(ジョゼフ・ブラッチリー)など、脇が大変良いです。出しゃばりすぎず、きゅっと締まった脇役たちです。
“アデルの恋の物語” への1件の返信