定年後に小説を書くベンハミン(リカルド・ダリン)と再会したイレーネ(ソレダ・ビジャミル)のノスタルジックな対話、そして25年前の若かりし頃のサスペンス事件簿が同時に描かれます。
年老いた姿と若い姿、両方を演じるこの二人、実年齢不明の演技力ですね。若い頃は若い頃なりの、年を取ってからは年を取ったなりの姿をちゃんと演じきります。最初、まずそこで驚いてしまった。
役者ってすごいですね。メイクだけではなく、ちゃんと演じてこそ説得力を持たせられます。特にイレーネを演じたソレダ・ビジャミルはすごいです。若い頃と年食ってからの二つの年代を演じわけ、しかもどちらの年代も大変魅力的。なんというベテラン女優か、と思ったらまああなた、この人この映画で新人女優賞を獲ってるじゃありませんか。新人だったんですよ。驚きですねえ。
さて、小説を書く定年退職したベンハミンは、25年前の事件が忘れられないのですがそれは何故でしょう。きっとその事件が不可解なのだな、と観客は目星を付けますが、オープニングからどうも「愛」の系統映画のような断片的なシーンも印象深いので、そっち系なのかなという想像も出来るようになっています。
そして実際に25年前の事件が時系列を追って描かれまして、こちらはこちらで見応えある捕物帖となっています。
これはつまり、25年前の何が腑に落ちないのかという主人公の謎と、そのものズバリ25年前の殺人事件の犯人捜しという二つのミステリが同時に投げかけられた贅沢な作りの映画なのです。しかも、美しい若妻と美しい元上司という魅力的な女性も出てきますし、25年前の事件についてはさらに続きがあって当時の社会状況を反映した社会派映画の一面もあったりして、なんとまあいっぱい詰まった正統サスペンス娯楽映画でしょう。
アル中の相棒パブロ(ギレルモ・フランセーヤ)も魅力的だし、被害者の夫やその他の脇を固める面々もちゃんとしてるし・・・と、思ったらギレルモ・フランセーヤって「ルド and クルシ」の語りのスカウトマン、パトゥーダ役のあの人じゃありませんか。なんとまあ、そうでしたか。味わい深いはずです。
ギレルモ・フランセーヤ(Guillermo Francella)はメキシコ、ブエノスアイレス生まれの俳優・コメディアン。日本では他に「モロダシ学園/全員発情」(イタリア・アルゼンチン:1986)なんてコメディ映画が紹介されているだけですが、映画やテレビに多数出演しています。1955年生まれ。
そういえばスタジアムのシーンがあって、ここはカメラアングル的特殊撮影処理的にびっくり目を奪うシーンでして、こういう見どころもちゃんと用意しています。大ヒットして然るべき作品と言えましょう。
極めて真っ当なサスペンス劇場。大人が楽しめる作品です。
ものすごく褒めて言えば、名作映画のような落ち着きと完成度の優秀作品、ものすごく普通に言えば、たいへん良くできた火サス的愛とサスペンスの作品です。
アカデミー賞外国映画賞を受賞です。そういえばアカデミー賞っぽい作品です。なんとなく漠然と「名作映画っぽい」と思うのは間違いでもなかった模様。
そしてゴヤ賞では多くのノミネートの末、スペイン語外国映画賞と新人女優賞(ソレダ・ビジャミル)獲得です。