この映画、2005年に完成していたのですが、諸般の事情のため公開は2009年になったそうです。
195分の大作です。果たしてその長さに匹敵する面白さがあるでしょうか。観るのに覚悟がいるでしょうか。
覚悟はいりません。尺は長いですが、内容をいっぱい詰め込んだ物語、所謂テレビドラマ総集編的な、沢山のドラマが密集している系統の映画でして、シリーズ物の Vシネを2、3本続けてみるような、そんな手軽な感じです。
一本の映画としてみると明らかに詰め込みすぎで散漫なんですが、詰め込まれた個々のドラマは面白いし、退屈することなく楽しめるでしょう。
警察の仕事を赤裸々に描いた「はたらくおじさん:けいさつ編」です。街の下っ端巡査から麻薬取引の刑事さん、上司に尽くす兵隊デカ、警察の仕事を多くのエピソードで綴ります。
細かい部分がわりと冴え渡ってます。
例えば、この映画には食事シーンがいくつか登場します。寿司、とんかつ、そば、すき焼き。役者の演技はいいし食べ物は旨そうだし、演出もいいです。
登場人物たちの日常の振る舞いや、ちょっとした仕草などにも細かい演出を見て取れます。
ただしこの映画が3時間を越える作品として価値があるのかと言われれば、残念な部分もなくはないです。惜しい。
細やかな演出が冴え渡る部分があるかと思えば、どうしようもない雑な演出や人物設定に呆れる部分もあります。
落差が激しいです。
あとやはりラストにかけての数十分間はさすがに息切れ、というか、言いたいことをストレートに出し過ぎてキャラクターは破綻するし、メッセージ性が露骨すぎて引いてしまうし、せっかくの長尺を台無しにする部分も見受けられます。特に外国特派員記者会見のシーンは、せっかくのロケ提供という特別な措置まで施して貰った大事な見せ場だったにもかかわらず、ずっこけシーンの悲しいことになってしまいました。
言いたいことがあるのは判りますが、言いたいことはエピソードで十分伝えられるはずです。わざわざ説明的なセリフを用意されるとがっかりです。
社会派として多くの人に見てもらおうとするなら、やはりもうちょっとやりようがあったのではないかと思わずにおれません。
主演の菅田俊は実直な青年時代から傲慢な刑事時代、くたびれ果てた中年まで、見事に演じきります。舞台俳優の貫禄を見せつけますね。「キル・ビル」や「ラストサムライ」にも出演しているそうです。
本作には鬼気迫る演技のとあるシーンがあるのですが、映画的にはあまり評価できないシーンではあるものの、その演技は現場スタッフを凍り付かせたのではないかと想像できる力強さを感じます。
野村弘伸は子リスのような童顔と飄々とした演技で独自の魅力を持った俳優です。本作では真面目さと怖さと冷酷さ、内に何かを秘めた複雑な役を演じました。上手いです。
出光元と野村弘伸がすき焼きを食べるシーンがありまして、あれが本作の一番のシーンだと私は思っています。見応えある素晴らしいシーンでした。
そうそう、裁判官役で宮崎学さんが出演されています。これちょっと驚いた。裁判官の役、皮肉が効いていてぴったりですね。
警察組織や御用マスコミである記者クラブについての告発的内容であることを考えれば、こういう映画は作りにくいだろうし公開も難しかろうと思われます。監督はもちろん、製作のすべての人たち、すべての出演者たちに敬意を表さないではおれません。
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