スタンドアップ

North Country
1988年の実話を元に映画化されたセクシャルハラスメント訴訟を起こす女性のドラマ。暴力亭主から逃れて故郷ミネソタに移り炭鉱労働者となるジョージー(シャーリーズ・セロン)が男社会の職場で受ける屈辱。
スタンドアップ

女性が頑張る社会派ドラマです。79年の労働運動に関わる女性映画「ノーマ・レイ」をちょっと思い出しました。

シャーリーズ・セロンが男臭い職場で受ける下品ないやがらせの数々は自分が男であることが厭になってくるようなレベルで迫ります。鉱山の労働者たちですから、ねちっこい系というより大胆で粗野で頭悪そうで暴力的で高圧的で野獣的で人の気持ちを考えず下品で露骨で最低です。これはこれで、労働者を馬鹿にしてんのか、っていうくらいのひどい描写ですが、まあ実際のところこういう奴らが労働階級に多くいるのもまた事実(←言い切っていいのか)
いや私も労働者の端くれとして、いろいろ見てきてますからねえ。でも決めつけはいけませんよ、インテリで優しい労働者もたくさんいますからね(わたしとか)

いや労働者の話でなくセクハラですが、セクハラもしくはセクハラじみたことをされた経験を持つ女性なら、この映画、身をよじる辛さと怒りを思い出してしまうかもしれません。ほんとに悔しい感情が伝わる脚本の厭らしさとシャーリーズ・セロンの演技です。

見ていて「むかつくーっ」と身をよじるシーンの連続で、あまりのムカつきのために途中で見るのをやめたくなる人も出てくるかもしれません。

しかしやられっぱなしというわけにはいきません。我らがシャーリーズ・セロンは立ち上がります。スタンドアップです。

・・・・確かに立ち上がりますが「スタンドアップ」っていう邦題は安直ですねえ。もうちょっと何とかならなかったのかと残念です。

シャーリーズ・セロンは立ち上がりまして、訴訟を起こします。ヒーロー的に立ち上がると言うより、もっと深刻でやむにやまれず、辛いんですが頑張ります。これは勇気が要りますよ。

この作品は実話を元にしておりまして、全米で最初にセクハラ裁判に勝った女性をモデルにしております。
これをきっかけにセクハラという言葉も浸透し、セクハラしてはいけないんだなあと阿呆な男どもも徐々に気づくことになりまして、歴史的な大きな転換のきっかけになり以降セクハラなんて以ての外であるという認識が広がりました。

確かにセクハラに関する認識が広がったのは社会的な成熟の過程での必然みたいなものもあったでしょうし、このような認識が広く受け入れられる世間の風潮が徐々に育ったこともあるでしょう。しかし結局のところこの主人公女性のような個人が闘いを挑んだことが大きなきっかけを作り出すものなんです。常識を翻し、中傷に立ち向かい、攻撃に耐えて立ち上がるのは常にどこかの誰かという個人だという点が大事です。

また時事問題に絡めて恐縮ですが、30年も40年も前からひたすら原発の危機を訴えてきた人、報道のファシズムに対抗して立ち上がる人、みんな同じです。いつもそういう少数の個人は常識に反することで世俗の攻撃にさらされ、中傷されます。出世も諦め、きつい思いばかりしてそれでもがんばりまして、徐々に新しい常識への転換を導きます。常識が転換したあとは誰もが彼らの功績を忘れます。「自然に、だんだんとそうなったんだよ」なんて思うのは思い上がりも甚だしいと思います。きちんと彼らの活動を評価して後押しすべきなんですね。

さて話を戻して、前例がない中、このようなセクハラ訴訟を起こすこと自体大変だし、それに勝つなんてことは前代未聞、よくやった。と、そういう筋はあらかじめわかってしまってますので、所謂実話系映画によくあるオチが最初からわかっている系の映画です。ですから見どころはオチではなく、自ずとドラマ的な部分になってきます。

ちゃんとよくできています。いろんな人のしがらみやなんかを交えて、真っ当なドラマとして感情を揺さぶられます。脇を固める役者も粒ぞろい、父親を演じるリチャード・ジェンキンスとか、良いですよね。この方の魅力は「扉をたたく人」で全開しましたね。
フランシス・マクドーマンドも出ています。コーエンブラザーズの映画でお馴染みですね。「ファーゴ」で受賞したほか「ミラーズ・クロッシング」「バーン・アフター・リーディング」などでもお馴染み。個性的で素晴らしい女優です。

「スタンドアップ」は2005年アカデミー賞とゴールデン・グローブ賞と英国アカデミー賞と放送映画批評家協会賞で全て主演女優賞(シャーリーズ・セロン)と助演女優賞(フランシス・マクドーマンド)を受賞しています。
・・確かに、この映画の魅力の多くは映像や演出や脚本というよりも役者に担っている部分が大きいような気がします。しっかりしたドラマ、っていう印象です。そういう意味でも、どなたさまもがきちんと観やすい正当的な社会派映画と言えるかもしれません。

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