兄ちゃんは優等生で優しくて親からの信頼も得ていて美しい妻と二人の娘にめぐまれてますが軍人です。弟は刑務所から出てきたばかりで不良の出来損ないです。
兄ちゃんはアフガニスタンに出発し、残された妻と子たちが弟とちょっと仲良しになってきます。
そういうお話です。
このオーソドックスな家族と兄弟のお話、オーソドックスとは言えじっとり描きまして見応えあります。大変に良質なホームドラマ。
監督のスサンネ・ビアは「しあわせな孤独」(2002)でドグマ95の作品を撮った人です。ドグマ95というのはラース・フォン・トリアーらによって始められた映画技法に関するルールですね。
「ある愛の風景」はドグマ作品ではありませんが、そういうのを踏まえてきた監督ならではのリアルな描写力が十分に伝わります。
全然リアルじゃない部分もありまして、アフガンのゲリラたちなんかは抽象的に描かれます。そこらあたりの説得力は本作の重要なテーマではないので良しとします。ここで引っ掛かる人にはリアルな物語と映らないかもしれません。
奥さんのサラ(コニー・ニールセン)が大変魅力的です。二人の娘もとびっきりの可愛さで、心の揺れまで上手に演出・演技します。
兄弟とサラの愛の物語が映画の核ですが、決して夫婦の物語というわけではなくて、やはり原題のとおり兄弟を描いていると言えましょう。
兄の捕虜仲間の妻と子が登場するシーンがあります。この奥さんがまたまん丸で可愛いの。で、息子である赤ちゃんとそっくり。この赤ちゃんも大変に可愛らしいのです。短いシーンですがこういう可愛い人たちを見るとちょっとにんまりしてしまいます。もちろん映画的にはにんまりするシーンじゃなくて辛いシーンなんですが。
画面の映像なんですが、ずっと四隅が暗いんです。ケラレているみたいな、不安な画面。大きな意図があると思うんですが、これに関しては私は「?」と思っています。不安感や、他人の生活をのぞき見しているような表現なのかな。回想的な表現なのかな。不思議な映像処理でして、効果をどのように感じればいいのかちょっと判りませんでした。
このタイプの映画は、紹介や予告など広報が大変下手糞です。ストーリーを追い、ストーリーの半分以上をだらだら紹介してしまっています。所謂ネタバレ系の宣伝で、これが鼻につきます。そのせいで、本作の重要なポイントを見逃してしまう人が後を絶たないでしょう。
事件や出来事だけを追うのじゃありません。とても細かい部分に注力している脚本や演技を堪能できないと面白さ半減なのじゃないでしょうか。
この作品、細かい部分や象徴的な部分を見逃さず、北欧ホームドラマの繊細な人間描写を十分に味わって観ることをおすすめします。
ぞわぞわする辛さは等身大、特殊な事情での物語ですがその内容はとても身近な感情を揺さぶります。
あと蛇足ですが、デンマークの刑務所が素晴らしすぎて「あそこに住みたい」と強く思いました。緩くて素晴らしい刑務所必見。なんていい国。
この作品は2009年に「マイ・ブラザー」としてアメリカ映画としてリメイクされました。
北ヨーロッパならではの細かいホームドラマ部分をどのようにアメリカ的にリメイクしたのか興味ありますがどう料理したんでしょう。予想ではどの辺を強調してどの辺を省略したか、なんとなく想像できますが想像でしかありませんので明言は避けときます。
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