こちら「The Cello」は「イデアの森」という邦副題がついております。もう一本の「The Trumpet」には「人生のメビウス」っていう邦副題が(笑)
「RED」「GREEN」っていうDVDパッケージもあります。戦隊漫画みたいですね。二本を一つに合わせたDVDも発売されています。どれがどうなんだよっ。
この二本を合わせて15人の名監督が短編映画を収めています。三題噺みたいなそのお題はすなわち「時間をテーマにする」「予算はどの作品も同額」「10分の短編映画」あとは自由!とのことで、カンヌ国際映画祭で上映され、イギリスのテレビでも放映されました。
「The Cello」に収録されているのは以下の8本。
ベルナルド・ベルトルッチ「水の寓話」
マイク・フィギス「時代×4」
イジー・メンツェル「老優の一瞬」
イシュトヴァーン・サボー「10分後」
クレール・ドニ「ジャン=リュック・ナンシーとの対話」
フォルカー・シュレンドルフ「啓示されし者」
マイケル・ラドフォード「星に魅せられて」
ジャン=リュック・ゴダール「時間の闇の中で」
これまた大御所揃い、あまりにも贅沢な、あまりにも濃い8本。もったいないもったいない・・。
8編の作品はどれも渋く哲学的な出来で、「The Trumpet」と比較すると長老ぶり、あるいは真面目っぷりが見て取れると思います。どの作品も時間をテーマにしたお題に対して本気真面目に捉えており、哲学的であったりノスタルジックであったりします。そういう意味では「The Trumpet」のようなバラエティ感は少ないかもしれません。でもその分深みがあり哲学的であったりして、これはこれで棄てがたい魅力の8作品です。
監督名に聞き覚えがなくて、これ誰ですか?と思う人もいるかもしれまんが、あの作品この作品の人ですよというとあぁあの監督か!となることでしょう。でも白状しますとそれでも私、知らない監督もおられます。はい。
では順番にさらりと見ていきましょう。
ベルナルド・ベルトルッチ「水の寓話」は、インドの寓話を題材にしたらしい主観による時間の概念と相対的時間の差違を童話のようにさらりと描いた一品。「ジャーマン・グッド、ジャーマン、グッド」「ここイタリアよ」のところが好き。
マイク・フィギス「時代×4」は4分割画面とノンストップ長尺によるひとりの男が複数の時間軸をあたふた移動して自分自身と出会っていくポップで実験的でノスタルジーな作品。
イジー・メンツェル「老優の一瞬」はひとりの男の人生を凝縮した10分間。俳優ルドルフ・フルシンスキーは120作以上の出演作がある名優。こちらもノスタルジックで、コミカルさの中に残酷さすら感じる作品でした。
イシュトヴァーン・サボー「10分後」はケーキを用意してワクワク夫の帰りを待つ妻の悲哀。帰ってきた夫は酔っ払って様子が変・・・これも長回しが迫力。妻の女性っぽい仕草が哀れを誘います。これかなり好き。面白い。
出演:イルディコ・バンサギィ、ガブール・マテ
クレール・ドニ「ジャン=リュック・ナンシーとの対話」は哲学者ジャン=リュック・ナンシーと若い女性による電車内での会話。自己と他者についての興味深い会話が繰り広げられます。でもって落ちの一言が何とも洒落てます。
フォルカー・シュレンドルフ「啓示されし者」は哲学的モノローグと目の醒めるような動き回る広角カメラによる迫力の映像。「ブリキの太鼓」の監督です。あれほど崇拝している「ブリキの太鼓」なのにこの方の他の映画を私見てません。「過去はない。なぜなら消え去ったから。未来はない。なぜならまだ来ていないから」とは、おれと同じ事を言うやつがいるんだなあと思ってたらむかしの偉い人の言葉でしたか。それは知らなんだ。
マイケル・ラドフォード「星に魅せられて」はなんとSF。「イル・ポスティーノ」の人なのに。10分の短編でSFとはまた勇気のあることをしましたね。
ジャン=リュック・ゴダール「時間の闇の中で」は10分をさらに1分×10に刻み、過去の映画やビデオ映像などを絶妙にモンタージュ。「〜の最後の瞬間」とカッコいいテキストと共に繰り広げられる映像美の嵐。「シネマの最後の瞬間」には度肝を抜かれました。このかっこよさは抜きん出ています。さすがです。超クール!
というわけでたいへん貴重な二度と実現しなさそうな上質オムニバス。「The Cello」は音楽もいいです。これ誰の演奏?クラウディオ・ボルケスですか。
奇跡の150分間でございました。ありがたやありがたや。
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