ミッキー・ロークが落ちぶれた元プロレスラーを演じて話題をかっさらった本作、当初製作会社は主演をニコラス・ケイジで押していたが、監督がミッキー・ロークの起用を主張して譲らなかったという。ミッキー・ロークに対して熱意の説得を果たしたそうな。監督もミッキー・ロークも素晴らしいじゃありませんか。そんでもって、ニコラス・ケイジでなくて本当によかった。
その偉い監督、なんと吃驚仰天のダーレン・アロノフスキーです。「Π」の人です。「Π」と言えば、思わせぶりで青臭い実験映像マニアックぶりっこSFのあの「Π」です。その後「レクイエム・フォー・ドリーム」で少し大人になったと思っていたら、なんと「レスラー」を撮るほどの大成長を遂げるとは、実に見事なものです。尊敬です。
これだからちょっと頼りない仕事をしたからといって切り捨てたりしてはいかんのですよ。きらり光る良い部分を見つけたりしなければ。人は予想を超える成長を内に秘めてたりするもんです。
ダーレン・アロノフスキーに何が起こったのかはわかりませんが、人間として映画監督として、愛情みなぎる大成長を遂げたことに万歳三唱を送りたいと思います。
さて「レスラー」、落ちぶれた元人気プロレスラーの孤独を愛の目線で描ききります。
ミッキー・ローク演じるところのプロレスラーランディはトレイラーハウスに住み、スーパーマーケットのアルバイトをしながら週末の地方興行に出場する暮らしです。
かつて栄光のロックスターだった男のドキュメンタリー「アンヴィル!」と同じような暮らしですね。娯楽産業の恐ろしさはプロレスもロックも皆同じです。ただし裕福な家族やバンド仲間に支えられ、堅気の仕事もしっかり行っている真面目でいい人のアンヴィルのメンバーに対し、こちらランディは根っからの駄目人間で仕事もアルバイトだし貧困の極みだし酒飲みだし大事な大事な約束は忘れるし刹那的に生きているしもはや動物と変わりないという、そりゃドキュメンタリーとフィクションの違いはあれど、かなりの駄目っぷりを発揮します。
この駄目人間さがほんとに素晴らしい。これぞ駄目人間。本来プロレスラーじゃなければただの社会のゴミ、犯罪者になっていたかもしれません。人間が集えばかならず数パーセントいると言われる駄目人間またの名を社会不適応者、あるいは犯罪者またはアーティストです。娯楽・芸能・芸術界はこのような人の巣窟です。
もはや駄目人間は他人ではありません。身につまされます。あなたはおれだ。うわーん。
駄目人間にも愛があります。これさえあれば人としてOKです。プロレスラーランディにも大きな愛があります。それがこの映画を支えている力です。そのランディを演じきったミッキー・ロークにも撮ったダーレン・アロノフスキーにもきっと大きな愛があふれているに違いありません。
2010.01.20
この映画、ランディがスーパーでアルバイトするシーンがとても良いです。真面目にやっていたり、嫌々やっていたり、かと思えばだんだん楽しそうに乗ってきたり、あるいは突如切れたりと、少ない仕事シーンで職業に就く人すべての人の共感を得るとてもよいシーンです。
プロレスはもちろんですが、このアルバイトシーンにおいても「はたらくおじさん」映画としての完成度が高いことをお見逃しなく。
ランディの娘を演じるエヴァン・レイチェル・ウッドは前年2007年の「ダイアナの選択」で若きダイアナを演じた女優さんです。
マリサ・トメイも大変いい感じの大人の女として登場、悲哀と優しさに満ちています。えっ。「いとこのビニー」のヒロインと同じ人とは、今はじめて知りました。ひぇーっ。そうでしたか。あの人が。そうですか。感慨深いです。でもアイドル美女みたいな役より今のほうがずっと良い。
第65回ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞
第66回ゴールデングローブ賞主演男優賞 (ドラマ部門)、歌曲賞
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