タイトルのククーシュカはカッコーの事。映画中のセリフでもカッコーが何度も登場します。狙撃兵のことをカッコーと言うんですね。隠語でしょうか。
湖の畔で暮らす未亡人アンニを托卵の仮親にたとえたタイトルでもあります。
どんな話かというと、冒頭はフィンランドの狙撃兵ヴェイッコ(ヴィッレ・ハーパサロ)が懲罰を受けるところからです。ドイツの軍服を着せられ、岩場に鎖で繋がれます。どうやら戦争に非協力的だからのようですが酷いことをしますね。近くには敵国ロシア軍の飛行機が飛び交っています。
置き去りにされたヴェイッコは知恵を働かせて脱出を試みます。
同じ頃、ロシア軍大尉のイワン(ヴィクトル・ブィチコフ)は誰かに嵌められたのか秘密警察に連行されようとしています。しかし間抜けなことに自国の爆撃機によって攻撃され重傷を負います。
そこで登場する地元住民のアンニ未亡人(アンニ=クリスティーナ・ユーソ)。やれやれ、という感じで見つけた死体を埋めてあげようとしますがイワンは息があり、小屋に連れ帰り介抱するんですね。
フィンランド兵ヴェイッコ、ロシア軍大尉イワン、そしてアンニの三人がラップランドの湖畔で出会います。
さてここでラップランドについてです。ラップランドは、スカンジナビア半島北部からコラ半島にあたる地域で、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、ロシアにまたがります。主にサーミ人が住んでおり、言語はサーミ語です。
この映画の舞台はフィンランドの最北部あたりのラップランド州で、第二次世界大戦の末期、ロシアとフィンランドが 戦争状態であります。ドイツとフィンランドの関係は微妙なところで、まだ戦争は勃発していない状況でしょうか。してるんでしょうか。歴史に疎いのでよくわかりません。要するに各国入り乱れているややこしい状況ってことを判ればこの映画についていけます。難しい政治の映画ではありません。
ラップランドと言えば極北の地。フィヨルドや氷河や谷、高原に湿地帯、湖にツンドラ地帯、北欧の美しい景色を思い浮かべます。この映画の主な舞台も湖の畔の北欧っぽい土地です(湖ですよね?海じゃないですよね?多分・・)
美しい景色を敢えて暗いトーンで描きますが、根っこの美しさは消しようがありません。童話と精霊の地、あこがれの北欧の景色です。一人で暮らす未亡人アンニの姿がまた何とも美しく絵画のようです。このアンニの美しさと内面の面白さの乖離がまた抜群なんですがそれは本編で是非楽しんでください。
さて、この映画が本格稼働をするのは三人が出会ってからです。戦争の暗い映画かと思いきや、コミュニケーションの不全と国を超えた人間の共生を描くコミカルタッチの映画へと変わっていきます。
未亡人アンニはサーミ語、狙撃兵はフィンランド語、ロシア大尉はロシア語を話し、三人とも相手の言っていることがさっぱりわかりません。
誤解と思い込みでもって、この三人がそれぞれ妙なコミュニケーションを取りながら共同生活を始めます。
はっきり言いますが、無茶苦茶面白いです。
言葉が通じない三人のはちゃめちゃ騒動って設定は必ずしも驚くべきアイデアというわけではありません。しかし、この三人の性格設定、会話の内容、暮らしぶりたるやあらゆる映画関係者や文学者が「やられたっ」と悔しがること必至の大変すばらしい脚本です。
すっとぼけた味わい、知的なすれ違い、誤解で成り立つ会話、コミュニケーション不全の面白さが炸裂します。知的な言語ゲームのようなコミュニケーション不全の面白さが好きな人には是非とも観ていただきたいお勧めの逸品です。
とくにロシア兵、フィンランド兵のそれぞれの性格や思想が見て取れるあたりの文学的不協和は抜群です。身をよじる面白さと誤解の辛さ。
作り手や広報的には「愛のハートウォーミング映画」みたいな売り方をしたいようですが、愛とかハートウォーミングとかはどうでもいいです。
三人の人柄とおかしな会話、湖畔での暮らしぶりと風景を楽しむ映画です。
堂々の受賞歴は以下の通り。
第24回モスクワ国際映画祭:全5部門独占受賞
第27回トロント国際映画祭 正式出品
第46回サンフランシスコ国際映画祭観客賞
ロシア映画芸術・科学アカデミー ゴールデンイーグル賞4部門受賞
ロシア・ニカ賞4部門受賞
ロシア映画祭最優秀新人賞(アンニ=クリスティーナ・ユーソ)
ロシア・ヴィボルグ「欧州への窓」フェスティバル2部門受賞
アンニ面白すぎます
ヴィエッコはマット・デイモンに似ています
イワンはデヴィッド・シューリス(「縞模様のパジャマの少年」のお父さん役)に似ています
アンニはエジンバラの友人Gちゃんに少し似ています(←知らねえよ)
“ククーシュカ ラップランドの妖精” への1件の返信