精神科医カーラの冒頭エピソードは多重人格を装った犯罪者の嘘を見破り、見事極刑に持ち込む助言をするシーンから。しかし極刑のニュースはやけ酒とともにあります。
この冒頭で、カーラ(ジュリアン・ムーア)の性格を端的に表現できています。真面目で科学志向、でも人間的には優しい人って感じですね。娘とのシーンでは信仰心のあるところなんかが表現されます。
同じ精神科医でカーラより柔軟な父親からデヴィッド(ジョナサン・リス・マイヤーズ)という患者を紹介され、彼との面談が始まり、本編に突入。
彼の多重人格は本物でしょうか。面談シーン、いいですね。
序盤から中ほどまで大変丁寧に演出され、ジュリアン・ムーアの存在感も相まって見るものを引き込みます。
この精神分析の前半が丁寧な作りものですから、ついこの映画を心理サスペンスとして期待してしまいかけるのですが、そこはそれ、観客に過度の期待を持たせぬよう、随所に変なシーンを盛り込みます。首の後ろが痒かったり人格が切り替わるときに変身シーン(?)があったりするのがそれです。
「真面目な映画ではなく突飛な話になっていくのですよ」という宣言とも取れるそれらシーンのおかげで過度の期待をせずに済みます。
脚本上の上手さを感じる部分が前半にいくつも用意されています。例えばデヴィッドという患者ですが、次の人格が現れるあたりの話の持って行き方はいいですね。デヴィッドの生家を訪ねていくエピソードもサスペンスフルで小さな驚きがあるし、母親との面談シーンもいい感じです。
前半のこの丁寧な展開が好きな鑑賞者にとっては、やはり後半の展開にやや不満が残るかもしれません。
後半は後半で、違う映画のようになっていきましてそれなりにドキドキ映画としては「あり」なんでしょうが、前半の丁寧な設定が崩れていくのはちょっともったいないです。
崩れたなりに面白いところもありまして、私は3人目の人格、ロックミュージシャンの彼なんかお気に入りです。その後、メイン人格の家を訪ねるシーンに繋がり、その彼も面白いです。「HELL」とか。あのあたりは、この映画の「動機部分」に思いを馳せて笑っても良いんですよね。
こういう面白い部分は前半の面白さとは相容れない部分でもありまして、脚本の詰め込みすぎをちょっと考えずにおれません。
あ。脚本は「アイデンティティ」の人ではありませんか。なるほどー。そうですかー。何となく納得。でも「アイデンティティ」はOKでしたが、こちらはどうでしょう。うーむ。やり過ぎたか単純化しすぎたか。でも悪くないしなあ。良く出来てるしなあ。でもなあ。複雑。
さらに後半、またまた違う展開でややあっけにとられますネタバレしたくないので書かないあれやこれやです。
ここまで詰め込むと、ただ単にいろいろやりたかっただけかよ、とも思えてきます。
この作品、撮影は2008年で公開が2010年です。2年の間に何があったのでしょう。
ゲスの勘ぐりをいろいろしてしまいます。
こういうどんどん展開していくサスペンス仕立ての映画はネタバレなしの感想文が書きにくいですね。歯痒いです。
誰かと一緒に見て、見終わった後「つっこみどころ満載」ごっこをして遊ぶのも一興。
いやしかし前半は大変いいですよ。というか全体にも決して悪くないです。面白いと言っていいでしょう。多分。いいのかな。
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