原題は「フラメンとシトロン」でして、そのタイトル通り、占領下のデンマークでレジスタンス活動に身を投じた男の物語です。
デンマークで大ヒットして国内映画賞総ナメ、外国にも広く買われてここ日本でも上映されました。
フラメン役のトゥーレ・リントハートと、シトロン役のマッツ・ミケルセン、この二人の役者が大変よい味わいを醸し出しています。いい顔してるし、観客を惹き付けます。地味で静かな映画の中で、この二人がドラマ部分を大いに盛り上げてくれますね。何と言っても、類型的で単純な人物設定になっていないところが味噌です。
国を思ってのレジスタンス活動で暗殺者→英雄となり→活動に不信を持ち→テロリスト扱い、というようなありがちな設定であるにもかかわらず、彼らの内面はシンプルじゃありません。出来事や「実はこうだった」みたいなサスペンス的な展開もシンプルじゃありません。善玉悪玉なんてありません。全ての謎と物語が収束するようなスカッとする話でもありません。
フラメンとシトロンは時代に翻弄された存在で、彼らの葛藤はより大きなうねりの中であまりにも非力、その表現が演技の中に生きてるんですねえ。とても良いキャスティングです。
この映画、じつはちょっと難しいところがあります。ひとつは、我々日本人があまりにもデンマークの歴史を知らなすぎること、先の大戦に関して(特にナチスや占領に関して)うっかり単純化して見てしまうこと、それにフラメンとシトロンという人たちのことを全くしらないという、そのあたりが難しさの原因ぽいです。
何となく「デンマーク人なら知っていて当然」を前提にしている節がところどころにあったりして、事情が飲み込めないことが発生してしまいがちなんですよね。
大きなストーリーの流れであるところのフラメンとシトロンが、ただのレジスタンスの暗殺者であった状態からいつの間にか愛国者の英雄に祭り上げられるあたりの説明的表現があまりなかったりもします。
この映画を観るにはフラメンたちが所属していたレジスタンスグループがデンマークではとても有名で、英雄視されているという事実を押さえておいたほうがいいかもしれません。
それと、他の国と違い、デンマークは弾圧の度合いも比較的軽度であったらしいのです。
そういう背景を何も知らずにこの映画に触れると、前提事情が飲み込めないので難しく感じるかもしれません。
そうでなくてもちょっと小難しいところがある映画でもあります。
ナチス・ドイツの占領下という状況も、うっかり戦争を単純化して見ていると何やら落ち着かない状況にこちらが追いやられてしまうんですね。 え?これどういうこと?ってなりがちです。でもそれはこの映画の意図したことでしょう。この「え?」はまさしくフラメンが感じた気持ちと同じなんじゃないでしょうか。
この映画はナチの冷酷さや戦争の悲惨さを描く反戦映画ではないし、レジスタンスのヒーロー映画でもないし、テロリストの話でもないし、信じていた活動が実は偽りであった、とか、黒幕は政府だった〜みたいな社会派サスペンスでもないし、裏切り者は誰だみたいなスパイ映画でもないし、暗殺者をクールに描くマフィアものでもありません。
世界は複雑です。政治も複雑です。人間だって複雑です。俺たちは何のために戦っているのか、誰のために戦っているのか、まてよ、そもそもいったい誰と戦ってるのか、と、その複雑さを、ありのまま表現している点がちょっと小難しい点であり、同時に魅力なわけですね。
デンマークにとっての「戦争の総括」を感じさせる力強い作品でした。
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