80年代、韓国は民主化前の軍事政権下にあり、発展途上の小国にすぎないという状況、事件捜査はいい加減だし、政権は反政府勢力の抑圧に忙しく犯罪捜査や治安などは二の次、現在との違いは相当大きいものであるようです。
日本で言えば高度成長期の前後に相応する、世の中の形と人間の価値観が大きく変化する激動の時代を一気に駆け抜けた時期。
この時代の狭間ともいうべき時期に起きた連続殺人事件を通して韓国の当時の世相を浮き彫りにする「殺人の追憶」は、高度成長期を体験した日本人にとっても、複合観念的ノスタルジーを強く刺激する内容となっています。
「それ以前」の世界は、単に素朴でのどかなだけではありません。粗野で乱暴、出鱈目で雑然とした世界でもあります。しかしそれでも「それ以降」の世界が失ってしまった何か重要なものが置き去りにされたのではないかとの思いも強く残ります。
ラスト、冒頭の死体遺棄現場が再び登場します。時代が変わっても畑と用水路はまだそのまま残っています。ここでソン・ガンホが見つめるのは事件だけではなく、駆け抜けた時代そのものではなかったでしょうか。
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