冒頭はレストランのピアノ演奏です。
いいレストランですね。音楽の生演奏と美味しい食事。もてなしとくつろぎ、煙草と飲み物。落ち着いた大人のための憩いの店です。たとえシェフがアル中でも。
この店が良い店すぎて冒頭で感無量になってしまいました。
お店の佇まいの素晴らしさと、主人公イロナの給仕長を含む従業員の素晴らしさを短時間で描いた直後は、これまた誇り高き路面電車の運転士である夫との邂逅シーンです。 洒落た良いシーンですね。
こうして映画が始まります。
この登場人物たちの気高さは全く敗者という感じがしません。たとえ失業しても、不本意な仕事をしても、アル中でやる気をなくしても、殴られても、銀行に見下されても、彼らはずっと誇り高き文明人です。そこがいい。これほどまでに人間を素晴らしく描ける人はきっと素晴らしい人なのでしょう>カウリスマキさん
おなじみの怪女優カティ・オウティネンさんが主人公にてまたもや本領を発揮。凛とした姿に惚れます。夫役のカリ・バーナネンさんも不愉快そうな顔をしながら優しさとプライドを持つ素晴らしい演技を見せます。
家を出た妻に会いに行ったときの夫婦の会話など、短い時間で鳥肌ものの愛のドラマが頻出。
エンドクレジットで「マッティ・ペロンパーに捧げる」と記されます。どうやら、最初はマッティ・ペロンパーの出演が決まっていたらしいのですが急逝で変更になったそうです。
マッティ・ペロンパーは無茶苦茶に味わいのある役者さんで本当に本当に急逝が残念でした。
劇中に登場する写真の少年は マッティ・ペロンパーさんの写真だそうですよ。
脚本的にちょっと不思議な設定だったのですが、捧げる意味が込められていたんですね。
さて「浮き雲」、せっかく再発されたお得なDVDシリーズですが、「浮き雲」と「真夜中の虹」が入った「トータルカウリスマキ 1」は入手困難みたいですね。