情報はこれだけです。ロマンティックサスペンスかな、と、監督や出演が誰かも確認せず、何となく暇つぶしに観てみようと手に取ったこの作品。
そして数時間後。
何も知らずに観て本当によかった。我が家の映画部屋では、極限の映画的興奮で放心状態に陥った腑抜け夫婦が屍となって起ち上がることも出来ずそこにおりました。
これほどの作品に出会えたのは奇跡です。日本での公開時は、個人的にドタバタしていた頃で映画など全く観もしていず何の情報も得ていない時期。これが功を奏し、奇跡的に内容をまったく知らずして済んだのです。
見終わった後、いろいろ検索などいたしますと、出るわ出るわ余計な情報が。これらネタバレを知っていてその上で鑑賞したらどうだったでしょう。もちろん作品の出来や面白さは変わらないでしょうが、衝撃や驚愕はというと、半減どころか、本筋をもどかしく思ってしまったかもしれません。
この映画の驚愕と衝撃、それは何も知らずに観た人だけの大きな、あまりにも大きな特権です。
この映画についてまだ知らない人はその特権を多いに生かして堪能すべきです。何も言わず、黙って観るべし。
かと言ってあまりにも趣味が違うのに見てしまうのもどうかと思うので、ほんの触りの紹介と、観ないほうがよい人をご提案。
タイトルにあるように、これはある人殺しの物語です。ですから、主人公は殺人者で人を殺します。死体も出てきます。ドキドキするサスペンスです。だから人殺しを見たくない人には向いていません。残虐なシーンはあまりありませんが、猟奇殺人には違いありません。
物語の舞台は18世紀のパリです。ですから、18世紀のパリが大嫌いな人には向いていません。それから、18世紀のパリはめちゃくちゃ不潔です。不潔な描写も満載です。不潔なものを見たくない人には全く向いていません。
冒頭は刑務所から引っ立てられ、死刑を言い渡されんとする主人公です。エキゾチックな、不思議な印象を持つ青年です。この青年が事件を起こし、人を殺し、捕まり、刑を言い渡されるということを示す冒頭とは、これまた大胆な。
このような結末が判っているのに、これから青年の半生を見なけりゃならんのか。と、不思議に思うはずです。ここで「なんだ、じゃあもういいや」と思う人には向いていないかもしれません。
物語の最初は18世紀パリの悪習立ちこめる魚市場です。魚の腐った匂いがスクリーンから臭ってきそうですよ。市場とか下品なおっさんとか裏道とか、そういうのが嫌いな人は避けるべきでしょう。
魚の腐った匂いが立ちこめる魚市場の一角で、ぼろん、と赤ん坊が産み落とされます。うぎゃー。いきなりのこのシーンのえげつなさは並大抵ではありません。えげつない描写が苦手な人はここで退散ですね。
この赤ん坊、育つにつれ匂いに超敏感なことに気付きます。超能力的鼻を持っています。エスパー鼻です。冒頭からの怪しい雰囲気のまま、ファンタジーの形相を帯びてきます。「そんな能力あるわけないじゃん。馬鹿馬鹿しい。嘘くさい」と思うような方はご退散願います。この作品に近づかないほうがよろしいでしょう。
赤ん坊は少年となり、青年となり、香水と出会います。ここまでまだ殺人者ではありません。
「さっさと殺せ。美しい映像とか文学的表現なんか邪魔で退屈なんだよ。殺せー血をだせー。ゴア命」というような人、そういう人もこの作品には残念ながら向いていません。「屋敷女」を観てください。でも素質はあるので、美しい映像や文学的表現、ヨーロッパ映画のテイストに慣れて、この映画を堪能できるようになることを期待します。
余計なお世話をもうひとつ。ここまでの紹介で、ある大傑作映画を彷彿とさせるかもしれません。
それは「ブリキの太鼓」です。
「パフューム」に一番テイストが近い映画を挙げよと言われれば、「ブリキの太鼓」と答えたいと思います。
だから「ブリキの太鼓」なんか大嫌いあんなの駄作さプイっ。なんて人にはこの映画は向いていませんので立ち去りましょう。
さらに言えば、物語の展開に関してお約束以外のものを認めない人、人に驚かされたときに笑えずに怒ってしまう人、まじめすぎる人も避けたほうが無難かもしれません。
さてまとめます。
「パフューム」は、下品で不潔で残酷で冷酷で、美しい町並み美しい景色美しい建物美しい映像満載で、文学的で芸術的で猟奇的、しっとりしていてぷーんと臭って渋くて暗い、ファンタジーでサスペンスでミステリでグロでフェチ、しかもコミカルでぶっ飛んでいて無茶苦茶で荒唐無稽で規模雄大で大袈裟で派手です。
そういうわけのわからないものが好きな人は何をさておいても観ることをお勧めします。
こんな凄い映画はそうそうありません。
2010.02.13
“パフューム ある人殺しの物語” への3件の返信