ミヒャエル・ハネケ2000年の作品。
初期の「セブンス・コンチネント」「ベニーズ・ビデオ」「71フラグメンツ」が テーマを絞り込んで締め上げてぎゅーっとこう、汁も出ないほど絞り尽くした作風なのに対して、 この「コード・アンノウン」は多くのテーマを提示してまき散らして詰め込んでやっぱりこう、ぎゅーっと握った後ぱぁっと手を離した感じというか、そんな映画です。その散乱したフラグメントがパリに巣くう病理であったり忘れられた人間の心境であったり都市の部品としての記号化された人間だったりするわけです。
まさに群像劇の技法にぴったりで、人々の記号としての有り様を冷酷に描き尽くし、見終わっても不安感と妙な高揚感が全く収まりません。ぞわぞわする、と申しましょうか。
「隠された記憶」を先に観てるんですが、ジュリエット・ビノシュがまたもや似たような怪しい役をやっております。この女優さんはこういう役をやらせると天下一品です。怖いほどです。
音楽を使わない特徴を持つハネケさんですが、時々使うときはそれこそもの凄い力を発揮させます。「ファニーゲーム」のジョン・ゾーンとアイちゃんしかり、この「コード・アンノウン」の打楽器の合奏しかりです。
この演奏シーン、強烈です。鳥肌です。全身の毛が逆立ちます。何という凄まじい音楽シーンなのでしょう。
この映画を観たあなたは、強烈な太鼓のリズムが精神的外傷となって脳にこびり付き、一生消えることはないでしょう。
カンヌ国際映画祭人道賞受賞。人道賞ってのがあるんですか。
2010.05.07