大巨匠ペドロ・アルモドバルの小さく軽いコメディです。気の抜けた小品ながら高濃度で、スカスカながらズビズビの変態性豊かな愛の映画でもあります。
大きな航空機がトラブルで着陸できません。航空機パニックムービーでしょうか。ちがいます。ビジネスクラスの数人の客と数人の乗務員だけが物語を繰り広げる小さな小さな話です。
他のエコノミーの乗客や乗務員は眠っています。もうね、いちいち描写すんのも面倒だから、全員寝かしてしまえということですね。この大胆設定はすばらしいです。映画の後半にもこの大胆設定を生かした大迫力クライマックスシーン(笑)が用意されています。
冒頭は飛行機の整備をしているシーンからで、この短い冒頭でペネロペ・クルスとアントニオ・バンデラスのずっこけラブラブ整備物語が楽しめます。ほとんどオマケ的サービスシーンで、演じてる姿も心なしか楽しそうです。観ているこっちも楽しくなります。
そんなわけで整備がいい加減なものだから機体トラブルが発生して飛行機は旋回中です。この間の機内のお話です。
大量の乗客は眠ってる設定ですから無視して、登場人物を絞り込みます。
ゲイの機長と副機長、客室乗務員のオカマ三人組、そしてビジネスクラスの客、未来が見える処女の女性、SMの女王、怪しい頭取、あやしいメキシコ人、新婚夫婦などです。
少人数に絞り込んだとはいえ濃密すぎる登場人物たちです。正直、これでも多すぎます。濃すぎます。
機長アレックスはCAのチーフと愛人関係です。アントニオ・デ・ラ・トレは「気狂いピエロの決闘」や「マルティナの住む街」はじめいろんな映画に出まくっているスター俳優。昔のダスティン・ホフマンにちょっと似た鼻デカ俳優です。
副機長ベニートは自分ではノーマルだと思っています。ウーゴ・シルバが演じてます。ウーゴ・シルバはご存じ「雑魚」の主人公ですね。何、「雑魚」をご存じない。「雑魚」面白かったですよ。
三人のオカマのCA、チーフのホセラはアルモドバル作品の常連ハビエル・カマラです。ちょっと目が寄っていておとぼけ顔、「トーク・トゥ・ハー」で看護師ベニグノを演じた強烈な印象が未だに残ってますか。本作では主人公レベルの大活躍です。
もう一人のCAファハスは真面目で信仰心豊かなオカマ。我らがカルロス・アレセスが起用されています。「気狂いピエロの決闘」「最終爆笑計画」「エンド・オブ・ザ・ワールド」「ゴースト・スクール」などどれも絶品。今や大スターです。この映画ではほんと贅沢な起用ですね。
もう一人のCAウジョアです。ラウール・アレバロです。オカマの演技がよく似合いますが、「マルティナの住む街」「ゴースト・スクール」で見せた絶大な面白さは控えめです。この映画ではカルロス・アレセスと同じく贅沢な起用となりました。
カルロス・アレセスとラウール・アレバロは映画の中では割と地味な役割です。いや、すごい見せ場もあるし、目立ちまくってますが、言ってしまえばただのオカマキャラで、他の濃すぎる人々にやや埋もれています。
個人的にこの二人に期待大でしたので、そのあたりはちょっと残念でしたが、いや別に残念とかそんなのありません。大巨匠の映画にメインで出演したってことのほうがでかいですしね。すごいことですよね。
近年の超話題作「気狂いピエロの決闘」の二大ピエロ、カルロス・アレセスとアントニオ・デ・ラ・トレの共演に一部気狂いピエロの決闘ファンの人も大喜びでしょう。
乗客です。
未来が見える処女ブルーノという役で我らがアイドル、ロラ・ドゥエニャスが登場。妙な役ですが、わりと美しい姿での出演です。なんと強烈、ロラ・ドゥエニャスの激しいエロティックなシーンが用意されています!すげー。うぎゃー。
SMの女王ノルマをアルゼンチン出身のセシリア・ロスが演じます。アルモドバル作品には何本も出ています。90年代にはスペインからアルゼンチンに戻っているそうで、アルモドバル作品の出演は「トーク・トゥ・ハー」以来でしょうか。
怪しいメキシコ人は「よくある顔だから」という発言シーンもありますがいかにもよくあるメキシコ人顔、でも個性的、この人はホセ・マリア・ヤスピクという方で、さすがに知らないなあと思っていたら「タブロイド」に出てましたか。やーやー。
俳優リカルド(ギレルモ・トレド)の愛人の物語が挟まります。飛行機外のシークエンスです。リカルドの愛人がふたり出てきます。ひとりはちょっと頭のいかれたアルバ、もうひとりはルディです。
頭のいかれた女を演じるのが「ルシアとSEX」のパス・ベガです。なんとなんと。
可愛子ちゃんのルディは「私が、生きる肌」に出ていたブランカ・スアレスでした。
まあそんなこんなで強烈個性のぶつかり合いで忙しいことこの上ないのであります。
会話の細かいところでケラケラ笑えるし、スペイン語の響き自体を笑いに繋げているところもあったりして、こういうベタで子供っぽい感覚はほんとに日本人にも似たところがあって、親近感持ちますねー。
話の流れは人を食ったようなとんでもない展開でして、まあなんというか、メスカリン後のクライマックスはストーリーだけ見ると単なるポルノ、めちゃすごいです。大人のブラックコメディですが真面目な人は眉間にしわを寄せるだけのハチャメチャ状態です。あっぱれ。あっぱれ。
映画作品的には批評家の評価低いんですか?まあそうかもしれませんね。でもそんなことはどうでもいいです。「男はみんなゲイである」なんてとんでもない発言も飛び出しますが、変態性豊かな愛の映画、ブラックで人を食ったお手軽濃厚映画「アイム・ソー・エキサイテッド!」でした。
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