家族を乗せて長距離移動。普通に国道を走ってればいいものを、知りもしないのに抜け道ということでハンドルを切り裏道へ進みます。
案の定知らない夜道は暗くて狭くてくねくねしていて抜け道どころか迷ってしまいそうな案配。
狭い車内でのイライラと知らない道を走る恐怖と長旅の眠気が家族を包み込んでいます。
運転中についウトウトしてしまい、ひやっとする接触事故を起こします。幸い、大事には至らなかった模様で、ですがその直後から、赤ん坊を抱いた白い服の幽霊というか女性が現れるようになって、この家族を恐怖が支配します。
これは怖いです。
知らない夜道を運転する恐怖を体験的に知っている人にとっては特にたまらない。
暗闇の道はヘッドライトが届くところまでしか見えず、走っても走っても爽快感がない、車内は狭く、家族同士で罵りあい、恐怖がパニックを引き起こします。
ほとんどのシーンが暗闇を走る車内。真のドライブ映画ですね。そして密室劇のような息苦しさを感じます。
理不尽な恐怖体験の撮り方も上手いです。まるで悪夢。フランス映画っぽい美しさを秘めて、じわりじわりと恐怖が迫ります。
この怖い夜道のドライブシーンはフェリーニの「悪魔の首飾り」を彷彿とさせます。
「-less」は幽霊ものような幻覚もののようなミステリーのようなスリラーのような地味な展開を経て、最後のシーンにたどり着きます。
真犯人というかオチというか謎解きというか、そういうものが一応最後に登場します。謎を放り出したまま謎だけを遺して終わるようなそういうタイプの映画ではありません。ちゃんと締めます。
そして最後まで観てすべてを納得して、それから改めてこれまでの展開を思い返すと、可哀想で怖くて辛い気持ちが沸々と沸き起こります。
謎が明らかになったのちにこれまでの出来事を思い返し「そういうことか」と納得させるこの技法は普通のミステリーです。その部分に特に目新しさはないとはいえ、どんでん返しの技法的な驚きだけを与えるようなものではなくて、 感情の部分で尾を引くようになっています。気持ち的です。ぐっと来ます。辛いです。
どうでしょうか、「-less」は、あまり広く知られていなさそうな映画ですが、我が家では大層人気です。とてもよい映画ですよ。
2006.06.01