イングロリアス・バスターズ

Inglourious Basterds
1976年のイタリア映画「地獄のバスターズ」を下敷きにしたタランティーノの新訳・戦争映画。
イングロリアス・バスターズ

こりゃすごい。こりゃたまらん。こりゃ耐えられない。こりゃどうなってる。すわ、こんなことに。あらまいったい。そんでこうかいっ。

と、隅から隅まで映画の魅力に満ちあふれた本作品。タランティーノの脚本、演出はなぜこうも底力があるのでしょう。

全てとは言いませんが、タランティーノ作品の特徴の一つとして、最初に思いっきりびびらせる技法があります。初っ端から全力で恐ろしさを表現して、この恐ろしさはこれから本編にかけてどこまで増幅するのかと観客を怖じ気づかせるんですね。この作品の冒頭のシーンがまさにそうです。ランダ大佐の恐ろしさを冒頭たっぷりと表現しています。それ以降、ランダ大佐が出てくる度に観客はちびるほど恐れおののきますよ。

そして、最初の恐ろしさを観客に引き摺らせたまま、恐ろしさではない別の表現へと移行していくのです。あっけにとられるやら、むず痒くなるやら、不思議な映画体験になります。これ大きな魅力です。

怖がらせることにかけてはかなりの腕前で、レストランのシーンといい酒場のシーンといい、饒舌+緊張感というシチュエーションにはいつもながら呻らされます。

もうひとついつも感じるのは、シーンの多くがオーソドックスという点です。映画愛に満ちたタランティーノのことですから、古い映画に対するオマージュであったりするわけですが、オーソドックスなシチュエーションでオーソドックスな展開を撮る、なのにこの新しさは何なの?と。映画表現の可能性が無限であると強く感じさせてくれるわけです。

役者もいいです。ブラッド・ピットは相変わらず才能全開だし、ランド大佐演じるクリストフ・ヴァルツ(Christoph Waltz)、この人、今回の真の主役じゃあるまいかと思えました。

ツォラー一等兵は不気味な役で、薄気味悪い優しさと傲慢さを兼ね備えたダニエル・ブリュールの変な顔がまさにぴったり。あ、この人は「サルバドールの朝」に出てるんですね。

それからいやらしい恐ろしさを顔でも表現していた酒場の少佐役アウグスト・ディール(August Diehl)にも注目。ゲッベルス役の怖い人はシルヴェスター・グロートという人です。

そんでもって、なんと言っても美しい才女メラニー・ロラン(Mélanie Laurent)さんにぞっこんです。

どういうわけか出ている(笑)イーライ・ロスとか。この人、面白い人ですよね。ホステルもキャビンフィーバーも最高に面白かったですよ。映画内映画「国民の誇り」はイーライ・ロスが監督したんですって。

クレジットを見ると、ハーヴェイ・カイテルとかサミュエル・L・ジャクソンなんかの名前も見えます。声の出演らしい。

まあそんなわけで映画ファンを虜にする映画なのは間違いなし。

本作、脚本を膨らませすぎて膨大になったため削りに削ったのだとか。もったいねー。それ全部観たいです。
2009年 第62回カンヌ国際映画祭 男優賞 (クリストフ・ヴァルツ)

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