宇宙人王(ワン)さんとの遭遇

L'arrivo di Wang
ここはローマ。中国語の翻訳家ガイアさんに急な同時通訳の依頼の電話が入りまして、いそいそと出かけますと目隠しをされてどこか判らぬ隔離された取調室に連れて行かれ、中国語を話す謎の宇宙人の尋問に付き合う羽目に。
宇宙人王(ワン)さんとの遭遇

ベネチアや一部好き者の世界で話題をかっさらったイタリア製のマカロニSF「宇宙人王さんとの遭遇」です。
中国語を話す宇宙人の尋問というワンアイデアの一発ネタ低予算映画で、監督脚本はアントニオとマルコのマネッティ兄弟。

宇宙人のちょっと間抜けっぽいような不気味なような坂田利夫に似ているようなへんてこりんなその造形美と、その彼が中国語を話すという真意不明のアジア人パロディ的アイデアが受けた模様です。もちろん私もそれに釣られてみてみました。

同時通訳として宇宙人の尋問に参加してしまった翻訳家ガイアさんは最初は暗闇で相手の顔が見えません。顔が見えないのに通訳はできない、ってことで「そんなら覚悟してください」と、驚かすことだけを目的化した取調官の適当なセリフの後に宇宙人とご対面。あわわと逃げ出しそうになりますが気を取り直し同時通訳を行います。

この映画、コメディ映画と思われるかも知れませんが決してコメディ映画ではありません。シリアス風に作ってます。だからこその脱力なので、今時らしい不可解系シニカル路線です。コメディではないけど面白いし、面白いけどシリアスっていう、そういうギャグです。いや、ギャグってわけでもありません。しれーっとしています。そんな映画です。

主な登場人物は翻訳家で心の優しいガイアさん、ロバート・デ・ニーロと西川のりおを足して割ったような謎の尋問する男キュルティ、そして中国語を話す坂田利夫似の宇宙人です。
あとは見張り番の定番禿髭男と、家に入り込んだ宇宙人を殴って捕まえた勇ましい黒人女性アモニーケ、その他ちょい役がちらほら。

舞台は主に取調室。ここでの尋問シーンが中心となります。

で、ですね。
この映画は予告編が人を釣るよい出来でして、真っ当な映画なら「ネタバレ全開だから見ないように」と言いたくなるようなネタバレ全開系予告です。
でもこんな映画(失礼)だからそれでもいい、と思えたりします。とにかく予告編が面白くて、そして映画本編は予告編ほどには面白くありません。というか、予告編以上のというか以外のというか、そういうのがあまりありません。

予算の規模やインディかどうかなどとは無関係に、だいたいどんな映画にも映画本編の魅力というものがあります。たとえば例に出して失礼ですけど「RUBBER」にだって本編にはワンアイデアやネタ以外の面白さが詰まっています。

取り調べの尋問が多くを占めるこの映画、アイデアや造型は面白いのに肝心の取り調べがちっとも面白くありません。
えんえんと同じような面白くも何ともない質問を繰り返すのみです。答えが嘘なのかほんとなのか、アジア人的無表情と中国語ではさっぱり要領を得ない、というような、アイデアに合致したやりとりの面白さがまるでなかったのが残念でした。

さらには、ときどきmovie booに書いている、野暮になりがちな「説明描写」ですが、あろうことか、連載漫画の冒頭みたいに「おさらいを兼ねて」なんていいながらくどくどと観客にストーリーをセリフで説明してしまうシーンも飛び出します。

ワンアイデアを生かす宇宙人とのやりとりこそが脚本のキモのはず。でもそこまで手を入れませんでした。それどころか脚本の腕前は相当レベル低いです。ここが非常に惜しくて残念なところです。センスあるし才能もありそうなので、会話いのちで脚本に取り組んで欲しかったところです。

というわけで完全にワンアイデアの一発ネタ映画ってことで、もともと短い尺ですがもっと短い時間で十分だと思いました。

で、ここまで貶したのでフォローしておきますが、必要以上に名作映画になる必要はありませんし、批判すること自体ださい話ですので、貶したり嫌ったりする気は本当は毛頭ありません。基本この映画好きです。

会話の妙技はなくても、無表情で不気味な宇宙人王さん、表情や仕草は面白いし、取り調べ後半の苦しい姿も同情を誘いますし、だんだん可愛く見えてくるし、決してこのネタ自体が失敗しているわけではありませんよ。そういう部分はきっちり伝わります。

そんでもって、ラストのあの一言だけは素晴らしいのです。あの一言を言わせるだけのためにここまで引っ張りました。その努力と根性は評価します。本編の脚本が良ければもっともっと効果的だったと思いますが、そうでなくても十分効果的で洒落たラストの一言です。

だから全部許します。

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