古い名作映画をあまり積極的には追っていません。新しい映画で観たいのがたくさんあるからってのもあります。むしろ若い頃のほうが過去の名作を漁っていたように思います。でもときどき古き良き映画が観たくなります。こないだ観たソフィア・ローレンの映画がいまいちだったので、ぐっと若い頃の「昨日・今日・明日」を観てみることにしました。
ソフィア・ローレンといえば「ひまわり」しか知らないも同然ですが、この映画は70年の「ひまわり」より若い頃の63年の映画です。若くて可愛いです。でもぴちぴちギャルではなくてそこそこ大人です。もちろんそこそこ大人であるからこそ可愛くて素敵なのであります。しかも可愛いだけじゃなくて、おっとその話はもうちょっと後で。
マルチェロ・マストロヤンニといえばやはり「ひまわり」・・・どころか、まあ色々男前な各種映画群ですが、個人的には男はどうでもいいので、うんと最近の「ジンジャーとフレッド」のほうが印象強いです。やっぱりくたびれてきた頃が魅力的だし、唯一リアルタイム公開で見た姿だからってのもあります。ていうか「ジンジャーとフレッド」を最近などと言ってわしゃ100歳か。
で、その二人がノリノリの時期の色物企画です。色物なんて言って叱られそうですが、でも基本そうでしょ?
主演はあくまでソフィア・ローレンで、相手役がマルチェロ・マストロヤンニです。三つの話が入っていて、それぞれ個性的でとてもよいです。
三つのお話は完全に三等分された尺ではなくて、最初と最後の話が比較的しっかり長くて、二番目の話がショートショートみたいに短めです。幕間って感じでこの構成も洒落ていますね。
最初の話
最初の話ではソフィア・ローレンとマスチェロ・マストロヤンニは貧乏夫婦です。
貧乏夫婦が貧乏の街ナポリで暮らしています。貧困の街ナポリは人情の街でもあります。
「子を産んで半年以内または妊婦は逮捕されない」と知って、逮捕される予定の妻は身ごもっている子を産むやいなや次の妊娠します。で、妊娠し続けます。「あんた頑張ってよ」と子を産むたびに可愛くなっていく妻は旦那にせがみますが旦那はやつれ果てていきます。
まあそういった、ファンタジックでコミカルなお話です。この夫婦に、街の住民が絡んできて、街ごと楽しいお話です。これ大好きです。
ナポリの感じもいいし、煙草売りの仲間もいいし、人々を見ているだけで楽しくなってきます。そして懐かしい感じの街と住民の暮らしっぷりを見て、思わず過去に逃げ出したくなるほどです。この頃のナポリがこんなファンタジックな楽しいだけの街なわけがないのはわかりますが、この小品の世界観が良すぎてうっとり涙目です。
そしてソフィア・ローレンの役どころがいいです。次々に子供を産んで旦那の精気を吸い取り美女になっていきます。ちゃきちゃきしていて女っぷりもよくて、強くてたくましいのです。
言葉はきついし闇煙草売りの中心的存在だし、なんせかっこいいです。
旦那のマストロヤンニは子作りに疲れて実家に逃げ帰ったりして情けない役です。でも夫婦は愛の絆で結ばれています。
真ん中の話
二番目の話では金持ちの奥様です。
金持ちすぎて退屈し、ちょっと知り合った男を誘ってドライブします。恋なのか遊ばれてるだけなのか。ちょっとした短い話です。ウィットに富んだ小気味よい作品で、これもいいですね。
この話のソフィア・ローレンは金持ちの偉そうな女です。マストロヤンニは信念を持った男ですが金持ちの前ではただの庶民に毛の生えた男にすぎません。この話でも、彼はちょっと情けない男です。
最後の話
三番目の話はソフィア・ローレンが自宅を職場に使う娼婦、マストロヤンニはソフィア・ローレンに入れあげているお客で官僚の馬鹿息子です。
このお話のマストロヤンニの情けなさっぷりは相当なもんです。たいそう面白いです。
ソフィア・ローレンに惚れてしまう神学校の若者がいて、そのおじいちゃんとおばあちゃんが登場します。この老夫婦こそこのお話の最高の見どころ。もうね、たまんないです、この老人たち。めちゃいい感じです。
というわけで古い映画の内容を紹介しましたが、ソフィア・ローレンが異なった役割を演じるこの三つの話、異なった役割ではありますが役柄的には一本共通する性格を持っています。
つまりただ綺麗とかただ可愛いというのではなく、偉そうだったり強かったりチャキチャキだったり男を手玉に取る女だったりします。くだを巻いたり罵ったりもします。強いです。そこがカッコいいところです。
また、どのお話にもある程度お色気系の設定が絡んでますから大人としての格好良さにも満ちています。そして多少悪辣なところがあって道徳厳守法律厳守のお堅い人間とはまったく異なる自由な人間のおおらかな姿がそこにあります。そういった点も映画全体の魅力だったりします。
63年の「昨日・今日・明日」でした。この頃の名画はやっぱり面白いですねえ。