人情や下町感や青春の映画でお馴染み、今や大物クラピッシュ監督です。「猫が行方不明」と「スパニッシュ・アパートメント」の二本はめちゃいい映画で大好きです。
「フランス、幸せのメソッド」というへんてこりんな邦題を付けられたこの作品、原題「Ma part du gâteau」ですが意味はよくわかりません。私のパイがどうとかそういう意味ですか。よくわからないので次いきます。
フランスというのは主人公女性の名前です。フランシスとかフランシーヌとかフランソワとかそういう名前としてのフランスです。フランス人にはフランスという名前があっておもしろいですね。アメリカ人にアメリカという名前を付けたのは「14歳」ですが、現実にアメリカという名前のアメリカ人はいるのでしょうか。日本という名の日本人、中国という名の中国人、パプアニューギニアという名のパプアニューギニア人はいるのでしょうか。パプアですかパプワですか。「アリゾナ・ドリーム」のおばちゃんに叱られそうなので次いきます。
この主人公フランスは子持ちのおばちゃんです。おばちゃんですが可愛いです。直情的なところもあります。長年勤めていた会社が倒産の危機で解雇され、仕事探しにパリに出向きます。そうなんです。おばちゃんフランスはフランスの田舎に住んでいる庶民です。
パリで移民の職業訓練と仕事の斡旋をしている男に会い、自分も訓練したい仕事したいと言います。「いやあの、うち移民専門だから」「パリの人から見たら、移民も田舎者も同じでしょ」と、そしてロシアからの移民のような振りをしながら移民に混ざって家政婦の仕事にありつくことに成功します。
クラピッシュ監督の小気味の良いギャグセンスがいろいろと炸裂します。節々で面白いです。新喜劇っぽいです。へんてこりんな邦題に対して内容が面白いのでそういう意味では褒めたいと思います。
いちおうコメディ映画ということにしていますが、笑い転げるコメディ映画ではなくてやっぱり人情系人間関係系で、それとちょっと厭な展開にもなったりしますから純粋にコメディとは言えません。
今回この映画ではあろうことか金融というものをネタにします。株やってる金持ちのビジネスマンが出てきて、田舎町の小さな会社を数字で転がす厭な奴らみたいなそういう出し方です。労働問題や社会派の形相もちょっとだけ帯びています。ですがちょっとだけです。いや、もしかしたら作った本人は大真面目かもしれませんが、どうも金持ち世界、金融世界の描き方が抽象的です。その抽象的金持ちの描き方が抽象的すぎて逆にちょっとおもしろいです。
金融ビジネスマンの金持ち役をやっているのが「この愛のために撃て」のジル・ルルーシュなんです。優しそうでぼーっとした感じのそういう顔立ちの人です。どう見ても負け組や温厚な人のほうが似合う役者さんです。
この人が金融業界の勝ち組超エリートっていうのが、これがミス・キャストすぎて笑えます。とてもじゃないが感情移入できません。バブル臭いゴージャスな家に住み、金持ちたちと会食し、表面的に女にもてます。世の中の金持ちと接したことがない庶民が空想するイメージとしての金持ちビジネスマンです。
庶民フランスとその周囲の人間たちのようにリアルに描きません。なんだこりゃと思いながら観る羽目になるわけですが、それがこのとぼけた映画の面白さでもあります。善し悪しの判断はできませんので次いきます。
途中唐突に美女が出てきます。この美女とビジネスマンのデートシーンはあまりにも変で妙です。面白いからいいけど。多分この美女、マリーヌ・ヴァクトの売り出し中なのではないでしょうか。美人でかつ可愛いですね。各方面、この子のことは放っておけないでしょう。
いろいろあってラストシークエンスがちょっと変わっています。
田舎の労働者たちと金融男が対峙するんですが、その顛末の描き方というか描かなさというか、このラストはコメディ映画から離れ、やや力が入ったものとなってます。我々は突き放され、少々あっけにとられます。監督の真意がどこのあるのか、それはわかりません。
フランスは商業と文化、両方の意味で映画メジャーの国です。ちょっと老けた女優さんも現役でばりばりやれます。大人の女性の愛の映画も沢山あります。ハリウッドでは年を食うと女優の多くは仕事がなくなったりして大変だそうですが、いやもちろんフランスはフランスで身内ばっかりで固めてたりして厭な面もありますが、こうした大人のおばちゃんが女性として魅力を保ったままの作品が多く作られるってのはやっぱりいいことだとおもうんですよね。
小気味がよくて面白くてあれよあれよの展開でちょっとした経済の社会問題も扱う軽い一本、いい感じの映画ではあります。