鬱の会社社長をメル・ギブソンが演じます。俳優のイメージとのギャップがまずひとつ狙いどころなんでしょうかね。メル・ギブソン、がんばってます。あまりものわかりのよくない奥さんをジョディ・フォスターが演じてまして、最近観た「おとなのけんか」にちょっと近い、ギスギスした感じの奥さん役です。こういう神経質っぽい人がよくお似合いです。
「ペーパームーン」や「ダウンタウン物語」から薄いながらもながーい付き合いの我らがジョディ・フォスター、おばさんになってもおきれいですね。アメリカの映画界で女優が長く活躍することの難しさを乗り越え、こうして監督としても活躍しているのを見ると尊敬できてしまいます。
この「それでも、愛してる」こと「ザ・ビーバー」という映画は、鬱で自殺も考えるおもちゃ会社の社長が、片手にはめるビーバーのマペットを手に入れ、自分の代わりにビーバーとして喋ることによって快活な人間にジャガーチェンジするという、そんなビーバー男とその家族の物語です。基本コミカル進行ですが、単なるコメディと思ってるとサイコホラーじみた展開にもなったりして、油断できません。
ビーバー男の物語と同時に、その息子のお話も進行します。息子のエピソードにはジェニファー・ローレンスが絡みます。「あの日、欲望の大地で」で大注目され、傑作「ウィンターズ・ボーン」で喝采を浴びた今もっとも旬な若手女優、ちょっとはれぼったい顔のかいらしいながら演技力抜群のこの子の力もあって、息子のエピソードもぐいぐい魅せる展開となります。
ところで、この映画になぜ「それでも、愛してる」などといった、こうしてタイプすることすら恥ずかしくなるようなトンチキな邦題をつけたのかが最大の謎です。とくに「、」の部分とか、ひどいですね。なんですかね、これ。
というわけでビーバーはまるで腹話術の人形のようでして、ビーバーなのかメル・ギブソンなのかどっちなんだいみたいな、そういう部分がこの映画の面白さでして、実際面白いです。
ですが、おもちゃ会社の社長という設定からして、このビーバーがどのような効果を得るストーリーになるのか、誰もが予想できる通りで大きな捻りはありません。どこかで見たような話が大筋では展開します。
ちょっと予想を超えた部分っていうのが最後のほうにありますが、それはコメディとしての予想を超えているのであって、サイコホラーとしてはやっぱりどこかで見たような展開です。
むかし「マジック」という映画を観たんですが、腹話術師とその人形の関係がよく似ています。「マジック」を観たときも「どこかで観たような展開だな」と思ったんですが、それほどまでにこの手の設定で生きた脚本を作り上げるのは難しいということでしょう。
そんなわけで、メル・ギブソンの腹話術を純粋に楽しむ以外は、脚本的な面白さはまああまりありません。でもいいんです。腹話術が面白いから。
同時展開する息子の話はわりといいです。ジェニファー・ローレンスもいいし、息子役のアントン・イェルチンもいいですね。若い才能ふたりがエピソードを紡ぎます。頭のよい若者というのが好物な設定でもありますので、それでひいき目に見たりします。
こちらも演技や細かい部分は面白いんですが、脚本的には最後やっぱりちょっと「ん」と首をかしげることになりまして、つまり最後のスピーチの件なんですが、これどうでしょうね。感想はもちろん個人的なものですから個人的な感想ですがと言っても当たり前なんですが、個人的感想としてはスピーチの物足りなさが最後の印象をちょっと貶めました。あのスピーチの内容はちょっとどうかと思います。
もう一つ最後に首をかしげるのが、ラストに現れるジョディ・フォスターの態度です。えーと、その、あの、ラストなんであまり言及するのもどうかと思いますけど、ちょっと安っぽいホームドラマみたいな演出が登場してしまうんですよねえ。そっと遠くから見てそれからそっと去るみたいな。あれどうでしょうねジョディさん。ちょっと安直じゃなかったですか。あれでいいんですか。いいのかな。
というわけで些細な点や脚本の詰めの甘さを除けば、コメディとサイコホラーを上手に融合してちょっと意表もつくし、メル・ギブソンのビーバーはいい感じだし、ジェニファー・ローレンスはオーラ出てるし、他の俳優たちやちびっ子もいいし、ジョディ・フォスターが監督だし、悪くないです。いや寧ろ良いです。
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