エレン・ペイジのことを「JUNO」で知りました。「JUNO」は大ヒットで出世作ですが、2005年のこの「ハード・キャンディ」ですでに話題沸騰していたということを聞いて、ずっと興味あったんです。
エレン・ペイジの演技力や個性やスター度は「JUNO」や「アメリカン・クライム」や「インセプション」や「スーパー!」を経た今、すでに完全体であり、尊敬できるレベルに達しています。エレン・ペイジ、めちゃいいです。
めちゃいいです、はいいけれど、この話題作を観ていないくせに「尊敬できる」とか「我らがエレン・ペイジ」とか言っていてはいけません。いえ、いけないことはないんですが、どうもいけません。それで、観る機会をうかがってたんですが、機会とかどうでもいいので取りあえず観ることにしました。
「ハード・キャンディ」がどのような映画か全く知りませんでした。青春コメディか何かだと思っていたらどうやらサスペンスらしい、青春コメディサスペンスかな、まあなんでもええわ、エレン・ペイジを見れたらそれでええし、なんて軽い感じで見始めたら、これがもう、これはもうね、たいへんな出来事でしてね、あのねみなさん、私はびっくりしました。メタクソおもろいハード・スリラーでした。
公開当時かなり話題になっていたそうですが、そりゃあ話題にもなりますね。こんなおもしろい映画を今まで知らなかったとは幸せ者です。知ることが出来ましたから。
「そういや最近、がつんと来るスリラー、サスペンス系の映画観てないなあ」
「なんかええのないかなあ。がつん、と来るやつがええなあ、がつんと」
なんて喋っていた矢先ですから、予想を超えたがつんぶりに相当がつんとやられました。望みが叶ったんですね。
というわけで主なストーリーは家の中にいる14歳少女と32歳カメラマンの会話や出来事による緊迫です。ほとんどすべてこの二人だけのやりとりです。
どんな出来事かというと、そんなのは観ればわかりますのでどうぞご覧ください。
不親切すぎますか。でも冒頭からの緊張感を楽しむためにも余計な情報はないほうがよろしいのです。緊迫を楽しむのです。
その緊迫たるや、ちょっとやそっとの緊迫ではありません。とんでもないです。とてつもないです。くそおもろいです。
行為もすごいですが、行為そのものよりも会話がすごいです。会話といってもほとんどエレン・ペイジの饒舌です。駆け引き、やりとり、腹の探り合い、知恵と悪巧み、会話と饒舌、知識と知性。言葉による攻撃、とてもよいです。ネタの多くが心理学的な効果を前提としているのもいい感じです。もうね、つんつん痛いところを突いてきます。
脚本の勝利!と言いたいところですが、やっぱりここはエレン・ペイジの勝利です。脚本もいい出来ですが、エレン・ペイジの超絶演技がなかったらここまで面白さは引き出せなかったと思うし、下手な役者だったら会話劇が間延びするところもあったろうと想像できます。
この監督と脚本のコンビ、わりと最近つまらない映画も作ってまして、今これを書きながら自分の書いた記事で知ったわけですが、それを先に知っていたら「ハード・キャンディ」を観ようとは思わなかったかも知れません[1. つまらない映画:ヒントは何とかデイズ]。ものごとを知らないっていうのは何てラッキーなことなんでしょう。
じっくり思い出すと、脚本のブライアン・ネルソンはいい脚本を書きますね。監督とのコンビで作ったつまらない映画も、脚本自体はそれほど悪くなかったことを思い出しました。「デビル」もいいし。ということは犯人は監督か。デビュー作である「ハード・キャンディ」の完成度が高すぎておかしくなってしまったのか、と、いうようなネガティブな話はやめておいて話をエレン・ペイジに戻します。
ほんのりおかめ顔で童顔、おっぱいは小さく腰にくびれがない子供体型で、実際背も低いです。こういう女優、ハリウッドスターとして相当変わり種ではないでしょうか。他にも個性派の女優さんはいますが、エレン・ペイジの童顔童身はかなり独特、不思議な説得力や包容力があり、それから知性を感じさせます。べた褒めでんがな。「インセプション」では女神アリアドネの化身にして夢探偵を完璧に演じきりましたからね。
「ハード・キャンディ」では普通じゃない饒舌14歳を演じきりまして、これは誰が見てもその演技力に舌を巻くレベルです。
エレン・ペイジばかりに目が行きますが、カメラマン役パトリック・ウィルソンの持つ雰囲気も映画の出来に一役買っています。この男、ちょっとしたロリコンなのか超変態ロリコンなのかどっちなんだい、というそんな感じを上手く表現しました。わりといろいろな役でいろんな映画に出ている人ですね。「ヤングアダルト」とか「インシディアス」とか。このキャスティングはいいと思いました。
「ハード・キャンディ」の内容については興味深い考察が山のようにあるのですが、サスペンス系のネタバレは下品なのでぐっとこらえます。
ちょっとだけ言うと、この映画の出発点になったという赤ずきんの童話や日本のオヤジ狩りといったキーワードから想起される部分ははっきり言ってどうでもいいです。そういう出発点を意識してしまうと、価値が半減します。それから、性犯罪について単純な立ち位置で見てしまうのももったいないです。
それよりなにより、この映画の魅力は饒舌と駆け引きです。心理学、行動学、犯罪学、精神分析、神経系の臨床や脳研究に裏付けられる巧みな応酬が実に見事。現代では誰でもそこそこ心理学の知識がありますが、もうちょっとそっち方面に詳しい人にとっては悶絶してのたうち回るほどの面白さです。
14歳少女か32歳カメラマンか、どちらにより感情移入するかということも試されます。この映画は観客に心理テストを施すが如きです。単純な立ち位置がもったいないと言ったのはこのことです。
だらだら書いてると内容に踏み込みそうになりますのでこのへんにしときますが。とりあえずあれです、がつんと来る系の複雑系の駆け引き系心理系応酬サスペンスの大傑作ってことで、そういうのが好きな人で未見の方には強くおすすめして、今日はこのへんで。