おとぎ話というのは基本的に怖いのがいいです。子供の頃に触れるおとぎ話にはそこはかとなく暗さと怖さがあります。ダークな部分をそぎ落としたおとぎ話など単なる子供だましであり実際には子供の心に何も残しません。
ギレルモ・デル・トロが関わるのダークなファンタジーは、しかしちょっと怖すぎます。心に残るどころかトラウマになりかねませんのでお子様の鑑賞には十分ご注意ください。
というわけでギレルモ・デル・トロ製作作品で監督はトロイ・ニクシーという方ですが、本作はテレビドラマを元に作ったこわ〜いおとぎ話の映画でして、ストーリーは比較的単純、ギレルモ監督作品的な作品の深みや社会との関わりというものはとくにありません。
「デビルズ・バックボーン」「パンズ・ラビリンス」「永遠のこどもたち」といった名作を連想しがちですが、特に捻りのない素直なお化け屋敷映画です。
で、なんとなく舐めてかかって観ていたら、冒頭からいきなりショッキングシーンに遭遇します。
いえね、日本ではあまり馴染みがない”歯の妖精”ですが、いくら歯の妖精のダーク・ファンタジーとは言え、冒頭いきなりですね、歯をですね、あれはちょっと、うぎぎぎぎぎぎ。
というわけで冒頭でビビらされて、舐めた気持ちを抑え込んで身構えて拝見いたしました。で、なかなか怖くてよろしかったですよ。歯の妖精たちもいい感じです。「グレムリン」を思い出しました。
ほんのちょっぴり文句があるとすれば、クライマックスの直前にクライマックスに匹敵する大暴れを描いてまして、大暴れと恐怖のクライマックスが連続で出てくるものだから「やりすぎやでー」とちょっと思いましたんです。まあサービスというか、あれはあれでいいのかもしれません。両方、やりたいシーンですものね。出し惜しみせず、がんがんやってOKだったかな。
褒めたいところはまずなんといっても女の子です。ちょっと太っちょで不愉快そうな顔をした、まあ言ってみればあまり可愛くないというか小生意気そうというかそんな感じの子で、それが逆にですね、演技の良さと映画との相性の良さを引き立てるんです。
不愉快そうな不細工な姿と、悲しく泣く姿、怯える姿、父親の恋人を嫌いながらもだんだんと仲良くなってくるあたりの繊細な感情表現、よく見てるととても表現力があるんですね。いわゆる子役モデルのような天使のような可愛い子というのじゃない人間味あふれる子役です。ベイリー・マディソンという子ですか。この子は価値あります。この子じゃなければ「ダーク・フェアリー」は面白くも何ともない映画だったかもしれません。
父親役はガイ・ピアースですね。有名人ですね。お約束通り、無理解者としての役割です。大抵この手の映画では父親というのは無理解者の代表者でありまして、理解せず、信用せず、お化けが出るといっても「大丈夫大丈夫わははは」などと脳天気に振る舞って最後の最後に身をもって真実を知り「ほんとだったのか」と驚いて酷い目に遭うという、そんな役割です。
単純な人間としての役割だから役者が頑張ってもいまひとつ深みや説得力や魅力に欠ける場合が多いです。仕方ありません、そういう役割です。
映画だけでなく、どういうわけか中年の男というのは阿保が多く、つまり想像力に欠け、危険を察知せず、人の心を読まず、身の丈の現実以外の世界を知らず、事実を歪曲して都合良く理解し、狭い世界に生き、環境の変化に順応できず、保守的で、現在の自分を守る為にはあらゆる事実から目をそらすという、そういうコチコチに凝り固まった四十肩のような人間が多いのです。
今はそういう阿保は「大丈夫おじさん」と呼ばれていて、線量がいくら高くても「大丈夫大丈夫」どれほどベクレっていても「大丈夫大丈夫」爆発しようがだだ漏れだろうが「大丈夫大丈夫」と念仏を唱えて家族を危険に晒すという、そういう人も増殖しています。大丈夫おじさんは、精神的な弱さから心的防衛として大丈夫を連発します。環境変化に適応できず自分の小さな常識と知識だけで身を守ろうとするわけですね。ダチョウは恐怖に襲われたときに砂に顔を埋めて現実逃避するそうですがそれと同じです。
話がそれましたので次行きます。父親の恋人キム役のケイティ・ホームズも中々微妙な美女です。美女ですが微妙です。でも本当はとても素敵なんです。だいたい、映画に出てる人はみんな凄い美男美女ばかりです。映画の中でそう感じなくても、現実に目の前にいたらめっちゃ美人ですよ。と、当たり前のことはともかく、「バットマン・ビギンズ」の時も「サンキュー・スモーキング」の時も「誰この女優めっちゃいい感じやん」と思った記憶があります。女優なら誰でも好きな私でありますが、この人も例に漏れずたいそう素敵な女優さんです。でもトム・クルーズの元嫁はんと聞くとがっかりしてしまうのは何故。
このケイティ・ホームズ演じるキムと子役の絡みはやっぱりいい感じです。「ダーク・フェアリー」は期待しすぎるといけませんが、かといってどうでもいい出来のどうでもいい映画というにはよく出来ています。シーンの節々に「お」と思う良い部分も多くあります。そこいらの並の作品と比較すれば上出来の部類ではないでしょうか。