「SHOT/ショット」の登場人物は父、娘、叔父さんの(ほぼ)三人です。そして全編ワンショットの長回しによるリアルタイムムービーという思い切った技法が特徴となっています。
全編長回しという技法が宣伝に用いられていなかったら誰も興味を持たなかったかもしれません。私もそれに釣られました。長回し結構好きなんで。で、邦題も宣伝そのままに「SHOT/ショット」なんて付けてしまいまして、これはさすがにやり過ぎだと思います。軽薄に見えます。
全編長回しリアルタイムだからして、上映時間と等しい90分弱の物語となります(と言うかそういう前提で観ることになります)
まず父と娘がてくてく歩いて古い屋敷に到着、そこで叔父さんと合流、一旦別れて屋敷内へ、ちょっと休もうかと寝る、物音、がたん、トントン。何の音。お化けの音〜。そんな感じです。いや、お化けの音じゃないですが。
長回しによるリアルタイム技法は大きな効果を上げています。緊張感が並じゃないです。期待せずに色物見たさに挑んだんですが、怖くて怖くて大変でした。怖い映画を見て久しぶりに「怖〜」と震え上がりましたよ。単なる色物ではありませんで、立派な作品です。
綿密な計画とリハーサルの積み重ねを思うと胃がきりきりします。女優さんとカメラの人、スタッフの皆さん、やりましたねえ。やり遂げましたねえ。
ストーリーのほとんどが、古い屋敷に潜む殺人者におびえる娘の一人芝居です。カメラは始終娘にまとわりつき、その存在を大きくアピールします。カメラマンという役柄の登場人物はいないので、具体的な誰かの視点というわけではありません。かといって単に画面を説明的に捕らえる神の視点でもなく、娘と半ば一体化した抽象的な「物語る者」です。「娘と半ば一体化した」という点がポイントです。「点がポイント」ってどういうことやねん(笑)
とにかく、この長回しカメラが第4の登場人物さながら存在感を放ちまくりますから、一般的なPOVとはまた違う独特の恐怖演出の効果をあげているんですよ。これは意外と新しいです。
全編長回しと言っても、どこかでズルしてるのは多分間違いありません。そんなことはまず不可能ですからね。というか映画内で「この映画は全編ワンショットの長回しです。ズルしてませんよ」なんて表現はありませんから、本当のワンショット、長回しかどうかなんて実は関係ないことなんです。どこかで繋げています。暗闇のところとか、いくつか怪しいところがあります。
観ているほうは監督の手のひらで踊ります。ワンショットの長回しを強く意識し、綿密な構成に感心しつつ「ここで誰かがトチったらやり直しだよ大丈夫か」と製作陣に感情移入した緊張感にも包まれます。同時に時間の省略がない状態のストーリーにも入り込み、お化け屋敷的恐怖を感じます。殺人者におびえる娘の行動のひとつひとつにも緊張して注目します。そんでもって同時にまた「どこかでカットして繋いでるだろ。ここかな。お。ここかな」と疑いの目も凝らします。知らず知らずのうちに、映画内と映画外の両方に感情移入しているのですよ。
で。
んーと。ややネタバレ近くなるのでここで一旦・・・コマーシャルはひかえますが、ここからネタバレ近い雰囲気に包まれますのでこれからこの映画を観る予定の人は見終わってからまた来てください。ではさようなら。
で。
実はそのこと自体がこの映画の大きな伏線というか罠になっております。オチには、この映画技法そのものを利用し、逆手にとった言わば映画の外側にある理由を使ったトリックによるどんでん返しを目論むという、映画的メタミステリーの小技を繰り出します。つまり、「切れ目なしのワンショットでリアルタイムに進行している映画なのである」というこちらの思い込みを裏切るわけです。ワンショットに見せかけたカット編集を探る姿勢そのものが、リアルタイム時間進行を分断し再構成するトリックの仕掛けとイコールで繋がります。
こうした、技法と目的とストーリーが渾然一体となった作風を高く評価します。
ただし、最終的な完成度の点では少々残念なことになっていると言っていいかもしれません。ストーリーと映画技法をまぜこぜにした叙述トリックのオチは非常にわかりにくいです。トリッキー部分はまだしも、シナリオ上の展開にはわりと無理があります。普通に観ていると「は?」ってなるオチになっています。好意的によくよく思い返して監督の意図を想像して噛みしめてあげないと、ただ腑に落ちないだけの安易などんでん返しもどきに見えてしまうんですよね。お話的にもよく分からないことになってます。つじつま的には、記憶系やサイコ系のちょっと稚拙な理由を与えてあげないと成り立たないので、そのあたりはもう一つお捻りもとい一ひねりほしかったところであります。
それ以外は、安い機材を用いた撮影もいいし、ちょっとウエットな雰囲気もいいし、美的な映像表現もいいし、そんでもってマジ怖いし、色物の駄作と思っていたら大違いで満足でありました。
監督のグスタボ・エルナンデスはウルグアイの新人らしく、2010年からの記録しか確認できませんでした。「SHOT/ショット」は63回カンヌの監督週間に正式出品されたそうです。これは快挙ですね。
映画は今のところこれ一本で、他はテレビの製作、脚本、監督などやっているようです。
ちょっとシャルロット似の主演女優はフロレンシア・コルッチという新人で、ほとんど一人芝居と言っていいくらいの演技をがっつり頑張り、やり遂げました。すごいよ。ほんとにすごいよ。
「SHOT/ショット」はハリウッドリメイクされ、原題と同じ意味の「Silent House」のタイトルで、すでに公開されたようです。
“SHOT/ショット” への2件の返信