話題になりすぎていて敬遠していましたが観たい気持ちを抑えきれず堪能しました。
いえね、公開時には、典型的な「宣伝に惑わされる人間」をやっちまったんですよ。普段は宣伝・広報・予告編の類いは避けてるんですけど、あまりにも話題になっていて、どうしても目に入るものですから「なんか厭な感じだなあ」と避けてました。話題のなりかたというか宣伝の仕方というか、これがですね、私の嫌いな、所謂古くさい意味での「さぶかるけい」で「受け狙い」で「ゴアで笑いを取る」で「斜めに見る」えせマニアの「かると」みたいなね、そういう感じだったものですから。ボロクソ書いてますが。そういう広告に惑わされていたわけです。
で、ほとぼりも冷めたことだし、よし観ようと挑みました「ムカデ人間」、なかなかどうしてよく出来た作品でした。というか 面白かったし怖かったし、良いです。確かにちょっと狙いすぎって感じもしますが、この感じならむしろその狙い方のさじ加減がめちゃいいと言っていい。なんだ結局褒めてんじゃん。
お話は気違い博士が人間を繋げて喜ぶというそれだけです。
序盤は女の子たちのわいわいシーンからドキドキ怖いシーンからどん底シーンまでたっぷりねっちょり描きます。ここまでねっちょり来ると思わなかったので、観ている間はほんとにかわいそうでつらかったです。
被害者はこの可愛い女の子二人とあとひとり、日本人の男です。この日本人の男、北村昭博という人が演じてますが、これがなかなかおもろいやつで、こんな感じの日本人を描けるとは、これもしかして製作に日本人関わってる?と思ってしまうほどです。たいへんよいです。
はちゃめちゃゴアで大笑い、みたいな印象の映画かと思ってたんですが、ふざけた感じはあまりなく、ちゃんと取り組んでいます。そういうの好感持てます。決して大真面目なわけではないし、基本的にふざけた話なんですが、ふざけっぷりを全面に出さずに、きっちり本当の意味での「変で妙な」映画にしようとがんばってる印象を受けました。斜に構えた「なんちゃってB級映画」などではまったくありません。
気違い博士は目つきのいっちゃったキャラクターで、このキャラクター造型がいいです。こういう設定にありがちな、冷静で周到で賢い人という、そういうレクター博士やジグソウみたいな人ではなくて、ちゃんと気違いの犯罪者って感じです。対応無茶苦茶だし作戦適当だし上手く立ち回ったりできないし線が切れやすいし、妙にそういうところがリアルです。
暴力の犯罪者はこの男のように突発的に躁状態に陥ったり感情をコントロールできなくなったりします。こういうキャラクターを見るとやっぱり恐ろしいです。大笑いすることが私には出来ません。
以前「スクリーム」を見たときも、犯人の躁状態に戦慄しました。あれをギャグみたいに受けとれる人の精神状態を疑っていたものです。あの手の暴力人間と間近に接したことがある人ならわかると思います。
「ムカデ人間」は何かちょっと雰囲気が独特です。ほんのちょっと変です。最後には若干アート的に終焉したりして、全体的に好きなテイストに満ちていました。オランダの監督トム・シックスに染みついた何かが、単なる下品ではない面白さを醸し出してるのかもしれませんがどういう人か知らないのでわかりません。「変態村」ほど露骨ではないですが、方向性として作り手の志の高さを感じます。
「ムカデ人間2」が2012年7月に公開だそうです。ちょっと設定を覗いてみたら「映画『ムカデ人間』が好きすぎる男が映画の真似をする」という、おお、メタテイストの2ですか。これは面白そう。でもまた気分悪くなるんだろうなあ。楽しみだなあ。
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